2016年の石油業界重大ニュース
 出光と昭和シェル、JXと東燃、原油安、電気自由化、トランプ他
あなたは12月企画の 番目のお客様です。今年の業界重大ニュースの前に、
世界の重大ニュースと言えば、その第一番は、やはり米大統領選のトランプ当選。
そして次にはEU離脱を決めた国民投票を上げたいと思います。業界ニュースとしては、
出光による昭和シェル株の経営統合を創業家が反対のニュースでしょう。今月は、
この出光昭和シェルに始まり、業界、世界、そして東京のニュースを解説します。
   2016/12/29   公取2016/12/19 合併承認後 更新   文責 垣見裕司

NO1 出光と昭和シェルの経営統合創業家の本気の反対で暗雲か
出光と昭和シェルの経営統合 株主総会で創業家が反対 2016年7月企画
出光と昭和シェルの経営統合 延期発表 株買取も来年へ 2016年11月企画
今年の石油業界の最大のニュースは、何といっても出光創業家の昭和シェルとの
経営統合反対です。それも株主総会での反対表明だっただけに、テレビや一般紙
や経済雑誌等でも大きく取り上げられました。
出光がロイヤルダッチシェル(以下RDS)から買う株価が、1350円と年末に少し上
げた相場での約1000円から判断してもまだ3割も高いので、当初は、RDSや購入
後合併する昭和シェル石油との統合折衝を有利に進めるための出来レースでは
ないかという声もありました。
しかし、出光月岡社長の取締役信任賛成が52%しかなかったことやその後創業家
が大金を投じて、市場から昭和シェル株を0.1%買い増しし、出光がRDSからの
株買い取りに待ったをかけたことから、両者の溝は決定的になりました。
これに対し出光販売店会は、創業家に具申書を送りましたが、創業家の回答は、
マスコミ発表と変わらないものでした。そして10月23日、出光経営陣は合併延期を
発表。延期の期間は2-3年ではなく数か月から1年以内というニュアンスでしたが
7月以降全く話し合いが出来ていない状況で「創業家の反対をどう説得するのか」
という記者からの厳しい質問にも、納得のいく具体的な説明はありませんでした。
また11月14日には公取の正式回答が遅れていることを理由に、株式取得予定を
10〜11月から12月〜来年1月と再々延期の発表をしました。
これら一連の騒動に対して、創業家の乱心だと言う人もいますが、私は33%の
大株主に対する配慮がやはり欠けていたのだと思います。例えばある外資が
33%も持っていたら、取締役の派遣要請は受けたと思います。
またのれん代と言えば聞こえはよいのですが、時価より3割も高い買い物をして
関連子会社にする以上、「対等」は精神だけにして、ブランドは両方残すものの
親会社と子会社という立場で精製設備や物流の効率化を図る選択肢の方が
正しいと思います。
しかし12月19日月曜日に遂に公取がJXと東燃の経営統合、出光によるRD
シェルからの株式取得のOK(排除措置命令を行わない旨の通知)が出ました。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161219.html
また31ぺージにも亘る詳細な参考資料は こちらです
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161219.files/161219.pdf
この公取の回答を売けて出光はRDSから即日、昭和シェル株を購入しました。
価格は約定の通り1350円です。当日の時価を1150円とすれば、200円
15%の「のれん代」というか「含み損」を抱えることになりました。また購入した
株式数は、当初の33.3% 125,261,200株ではなく、創業家が購入した持ち分を
考慮し、31.3%の117,761,200株にしたと発表しています。
詳細は こちら http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2016/161219.pdf
これで事実上の親子会社となった訳ですから、合併しなくてても出来る、経営
効率化から始めていくものと思います。
NO2 JXと東燃は粛々と進行中、公取のOKも12/19遂に発表
これに対しJXと東燃ゼネラルの経営統合は、本年6月末の詳細発表も含めて
順調に進行中のように思います。一つ気になるのは、公正取引委員会の承認が
12月1日になってもまだ降りていないことです。前述の出光と昭和シェルと一体で
「包括的に審議しているから」というのが遅れの理由のようですが、そんな中
11月18日に東燃ゼネラルのHPより12月21日の水曜日に臨時株主総会を開催
すると発表されました。案件は以下の3件です。
第1号議案 当社とJXホールディングス株式会社との株式交換契約承認の件
第2号議案 当社とJXエネルギー株式会社との吸収合併契約承認の件
第3号議案 当社とEMGマーケティング合同会社との吸収合併契約承認の件
実はJXHDのHPにも、11/18に臨時株主総会の開催が、1ひっそり掲載させて
おりました。しかし一株主である私のところには、通知書が届いたのは12/2でした。
ちなみにJXと東燃ゼネラルについては、大株主より特に反対の意思表明はない
そうです。強いて言えば、JX株と東燃ゼネラル株の交換比率が、東燃に対して
甘すぎるとのご意見もあったようですが、存続会社もJX、本社所在地もJXの
大手町ですからその辺は許容範囲の譲歩だと思います。
そして12月19日にJXと東燃ゼネラルの統合についても公取のOKが出て、同
21日の臨時総会も無事終了、即日、4月からの組織体制や人事がJXのHP
から発表されています。
参考 太陽石油が南西石油を購入か コスモ石油に新しい話は無し
このニュースは業界ニュースの3番目ということではありませんが、元売再編ネタ
として、またJXと東燃ゼネラルの統合的には少し関連しているので付け加えさせて
頂きます。10月18日、南西石油を太陽石油が135億円でペトロブラスから買収する
という話が入って来ました。その成り行きを固唾を飲んで見守って来た沖縄の方々
にとっては嬉しいニュースでしょう。南西石油は、ブラジルの国営石油会社ペトロ
ブラスが、2008年に東燃ゼネラルから買収し沖縄地方唯一の製油所として、沖縄
地方のガソリンや航空機のジェット燃料を供給してきました。
しかし原油価格の下落やペトロブラスの経営悪化に伴い2015年4月精製を停止。
2016年3月には石油製品の販売も終了。それ以降は東燃ゼネラルが製品供給を
担って来ました。南西石油は地理的にも中国から近いので中国資本の参入を心配
しておりましたが、JXや東燃が買い戻すと沖縄圏でのシェアーは独占に近いレベ
ルとなるのでJXと東燃の経営統合という意味では、難しい問題だったのです。
太陽石油なら四国に製油所を持ち、地理的な優位差もあるので最適な選択だと
思います。一方コスモに新たな話がなかったのも一つのニュースだと思います。
NO3 サウジとイラン国交断絶 それでも高騰しない原油価格
次の大きなニュースは、サウジとイランの国交断絶でしょう。 サウジは、イラン
に近いシーア派の指導者を死刑にしたことから、イラン国内では民衆がサウジ
大使館を襲い、これに反発したサウジは国交断絶を宣言しました。建前上は、
スンニ派のサウジとシーア派のイランの対立であり、古くはアラブとペルシャの
対立ですが、サウジの本音はどこにあるのでしょう。
以下私の個人的な推測ですが、第一はイランと国交を回復し多額の投資話まで
出ている欧米諸国に対する警告でしょう。湾岸戦争の時は親米方針を貫き、
イスラム圏にも拘わらず、米国に軍事基地まで提供したのに、そんなに簡単に
イランと仲直りをされては困るという嫉妬的な意味合いもあるかもしれません。
第二は、国家(王族)と国民の共通の敵を作ることによる国内の引き締めでは
ないかと思います。サウジはイスラム圏では最も戒律の厳しい国です。2008年
UAEを訪問した我々業界人さえ、日本石油のお力を持ってしても入国出来ませ
んでした。サウジはメッカ巡礼と高度なビジネスでしか入国を認めていないのです。
でもその厳しさの本音は、原油の収益を一部の王族が独占していることへの
反発を、宗教戒律の名のもとに抑えているだけのような気もします。
例えばサウジの一部の特権階級は休日にはドバイに来て、何とお酒を飲んで羽目
を外しているとのことですし、宗教対立と言っても、スンニ派とシーア派でも結婚は
出来るのだそうです。
そして本気で怒っているなら戦争をすることはあるのか。ミサイル1発あれば、敵の
油田施設を攻撃することは簡単ですが、お互いそこまではしないという暗黙の了解
もあるのでしょう。また米軍もそして情報通の投機筋も、その辺を読み切っている
からこそ、45〜50ドル/Bという微妙な価格帯で収まっているのだと思います。
NO4.電力の自由化始まる  JXはある意味善戦
ご存じの通り今年は、今まで地域独占かつ総括原価方式という二大特権を持つ
電力業界で一般家庭が自由化となりました。全国の人口1億2千万人で、電気契約
者数は6260万軒ですが、電気の購入先を切り替えた軒数は、5月末106万軒、
6月末126万軒、7月末148万軒、8月末167万軒、9月末188万軒とじわじわ
伸びておりその切替率は約3%です。
東京電力管内は9月末108万軒で約2千万件の契約者に対して切替率5%です。
以下の内訳は一部筆者の推定ですが、東京ガスは東電管内で約50万軒/1千万軒
で切替率5%。JXは約13万軒、東燃ゼネは約2万数千軒ですが、石油会社は
ゼロからの積み上げなので善戦でしょう。筆者の会社はLPガス部門が善戦し、
JX東京支店の特約店口座別ではトップのようですが、SS店頭では大苦戦です。
NO5.熊本地震では最後の砦を実証
今年の4月14日と16日、熊本で震度7が二回も起こるという過去経験したことが
ない大地震が発生しました。驚くのは昭和56年耐震基準は勿論、平成12年の
新耐震基準の建物でさえ、数多く倒壊してしまったこと。そしてそもそも震度7が
二回というのも想定していなかったそうです。また余震が非常に長い期間続いた
のも今までにはない事例でした。この結果、一部損壊までいかない家にお住いの
方も、夜は避難所で過ごしたことから、避難民がなかなか減らず、直接の死者が
50名なのに対し、震災関連死が60数名なのは大変残念なことです。その一方、
火災件数が少なかったことは、阪神淡路大震災の教訓が生かされたのだと思い
ます。そして石油業界としてはほぼ完璧な対応だったようで、SSの再稼働は
勿論、電力会社の電源車への軽油のドラム供給もうまくいったと思います。

NO6.益々厳しくなるSS環境 8月中旬から長雨は痛手
弊社の地域だけではないと思いますがSSの経営環境は益々厳しくなりました。
原油価格が最安値から50ドルラインまでは回復してきた訳ですが、大幅な値上げ
ではないだけにその転嫁が非常に厳しく、末端価格が少し回復しても週末特価
のSSがあれば、近隣SSもそれに追随して、結局周辺市況はまた下がるという
悪循環です。また日経新聞までが記事にしたように、元売は事後調整完全廃止
宣言をしたので、数量を売ってはみたもののマージン悪化のSSも多いでしょう。
しかし弊社のSSで最も辛かったのは8月15日以降の週末の度に雨が降るという
悪天候で、9月も続いた長雨による洗車収益減には本当に参りました。
NO7.もんじゅの廃炉決定も核燃料サイクルは続ける不可解
実際に稼働したのがたったの250日にも拘わらず現在までに1兆2000億円もの
莫大な予算が投じられてきた高速増殖炉「もんじゅ」。それがようやく廃炉に向け
動き出しました。石油業界とは直接関係ありませんが、電力やガスの自由化で、
その垣根はなくなったので大いに考えてほしい問題です。
しかし不可解なのは「もんじゅ」が廃炉になったとしても、核燃料サイクル構想を
中止する訳ではなさそうなことです。政府は新たな高速炉開発に着手。文科省が
進めて来た「もんじゅ」に代わり、経済産業省が推し進めるのフランスの高速炉
計画ASTRID(アストリッド)プロジェクトに変えるだけのようです。しかも、もんじゅ
は廃炉費用だけでも3000億円。新プロジェクトの完成も2030年から2050年
とのことなので、メタンハイドレードの開発成功の方がよほど早そうです。
NO8.水素社会への実現は停滞ぎみ 今年も東京水素推進会議 委員を拝命
SS業界の水素スタンド解説の第一人者を自負する私でも、今年の1年の進捗
状況は、残念ながら殆どありませんでした。まず規制緩和が進んでいない。
特に問題なのが道路との離隔距離で、未だに8mです。目指すべきは、ガソリン
並み灯油並みへの規制緩和です。具体的には水素スタンドが最も必要な都心の
SSは、灯油の販売が大幅に落ちています。この灯油タンクの代わりに液化水素
地下タンクを置き、灯油計量器の代わりに水素ディスペンサーを置くのです。
あとは更なる技術革新で液体水素を800Lのタンクにいれて大気熱で気化すれば
800気圧の水素になるのでそれをFCVに充填する。このシステムならコンプレッ
サーや冷却機が不要なので大幅なコストダウンとなるでしょう。東京水素戦略会議
は小池知事になっても継続中で直近は11月29日の委員会に参加して来ました。
小池知事はオリンピック会議と重なり、ご欠席でしたが、副知事曰く、当初の基本
方針に変わりはないようです

NO9 新EV シリーズハイブリッド車が日産から登場
やっちゃえ日産がついにやってくれました。11月よりNoteにエンジン発電機付の
電気自動車(以下EV)が登場しました。現在のEVは、高価なバッテリーを積んで
いますが、このバッテリーを小容量にする一方、時間のかかる充電の代わりに
エンジン発電機を積んでしまう発想で、分類的にはシリーズハイブリッド方式と
呼ばれています。エンジンは積んでいますが、高速時の加速アシストすらしない
ので完全に発電専用なのです。肝心の燃費は 37km/l。ハイブリッド車や
FCVでは、トヨタに1歩遅れを取った日産ですが、EVではリーフで培った技術と
プライドがあります。車好きとしては楽しみですが、SS経営者としては覚悟しま
した。一方車関連では、三菱自動車の燃費偽装問題は、極めて遺憾です。
日産との経営統合も当然の結果でしょう。
No10 VOC(ガソリンベーパー回収)問題もいよいよ佳境か
月刊ガソリンスタンドに詳しく書かせて頂きました。 こちらからどうぞ
世界の2大ニュースは
世界的なニュースは、米大統領選のトランプ逆転勝利と英国のEU離脱でしょう。
両社の共通点は現状批判を煽った大衆迎合主義と自国優先主義だと思います。
トランプに具体的な経済活性化策や雇用増大策はあるのでしょうか。メキシコとの
国境に壁を作れば、メキシコ人のしていた労働が白人の低所得者の雇用に繋がる
のでしょうか。しかし驚くのは中国通貨の元や円が安すぎると主張していた人が
選挙に勝った途端の円高は分かるのですが、それも一日で終わりで、今や
112円の円安です。たった2週間で1割10円以上も上げているのにも驚きです。
そしてNYの証券取引所は市場最高値を更新、日経平均も年初来高値の18000円
超えなので、もう全く分かりません。トランプ当選とその後の円安株高まで予想した
アナリストがいらっしゃったら是非 お話しをお伺いしたいと思います。
大統領と言えば、ロシアのプーチン大統領が、安倍首相の地元山口を訪れます。
領土問題とエネルギー開発等の経済援助は、必ず同時かつセットで行ってほしい
と思います。少なくともエネルギー業界人としては、サハリンTやUの苦い経験を
忘れてはいけないでしょう。
また韓国の大統領も大変なことになっています。今回の問題は、韓国国民が
大統領と崔氏に対して本気で怒っているので、従軍慰安婦や竹島問題で再び反日
を煽り、国と国民の共通の敵を作ろうとしても韓国国民はもうだまされないでしょう。
ちなみに今年も韓国の某元売の幹部が15人も来社され、懇談会の依頼があったの
で日本の石油事情を解説させて頂きました。
国内ネタは 東京ネタが多かった
国内では東京ネタが多かったように思います。舛添知事の辞職問題に始まり自民
党の増田氏VS小池氏VS鳥越氏の都知事乱選。当選後は小池知事VS都議会。
そしてあの豊洲問題がここまで揉めると誰が想像したことでしょう。更には東京オ
リンピックの施設問題。宮城県や埼玉県も巻き込んで常設か仮設も大騒動です。
筆者の会社関連では、SS100選に本誌でも紹介した吉祥寺SSが選ばれたこと。
ゼロ金利の恩恵で借入金の金利が低下は嬉しい限りです。また個人としては著書
「よくわかる石油業界」が5年ぶりに全面改定されることとなり、来年三月には発売
予定なので、是非ご購読頂ければ幸いです。来年もよろしくお願いします。