熊本地震の貴重な教訓
 首都直下型地震にどういかすか
あなたは5月企画の 番目のお客様です。2016/4/28
皆様もご承知の通り熊本大分地方で大地震がありました。最初の地震発生から2週間を
経た4月28日現在、死者は49名。不明1名 そして震災関連死が16名。心よりご冥福を
お祈り申し上げる次第です。 今回の熊本震災に際しては私は現地に行っておらず偉そう
なことは言えないのですが、現地の業界関係者にお話しをお伺いすることは出来たので
SS業界、LPガス業界、そしてエネルギー業界から見た震災状況を時系列的に纏め、
いつかは起きるであろう首都直下型地震への教訓として対応を考えてみたいと思います。 
                                          文責 垣見裕司
地震と被害の概略は
実は4月22日、福岡でLPガス業界の講演の講師を頼まれておりました。内容は
「LPガス販売業界の現状と自由化への対応」という感じですが、私の講演の
最初に必ず入れているのが、「SS業界における東日本大震災の教訓」です。
14日21時の1回目の地震の翌日にお電話をしたら、熊本地震の被害は益城町
を中心とした熊本市近郊エリアなので、講演の開催については、実施の方向で
検討中とのことでした。しかし16日土曜日1時にM7.3の本震が発生。
これは阪神淡路大震災並みの規模だったので、この日以降被害が拡大しました。
そして16日の土曜日にお電話があり、講演の延期が決定しました。その電話で
お話した方はLPガス業界の方だったのですが、LPガスは物流が命ですので、
今後発生するだろうLPガスのタンクローリーや配送車や営業車のガソリンや
軽油の確保をご助言させて頂きました。SSとLPの兼業率は意外に低いのです。
最初の前震と次の本震直後の最大の避難者数は、約20万4千人。1週間後でも
避難者は約10万人、2週間後で約3万7千人と報告されています。
ある熊本のSSでは、営業は3日目から再開したものの、社員さんたちは4日間
車の中で寝泊りしたそうです。SSでの長蛇の列は約1週間で解消されている
ようですが、関西テレビの報道車がSS待ちの列に割り込みツイッターに書かれ
関西テレビが謝罪するトラブルもあったようです。
東日本大震災後に灯軽油用のノズル付6KLローリーを購入した当社ですが
日帰り圏ならともかく、陸路での九州は余りに遠いので今回は断念しました。
時系列的な震災概要と石油SS業界の対応
14日 21時26分 熊本県益城町付近でM6.5震度7の地震発生。
15日 益城町の要請で中核SSが発電用ガソリンを避難所に搬送。
16日 1時25分、M7.3の熊本地震の本震発生、被害拡大。
16日 災害時石油連携計画を初発動。石連が共同オペルーム開設。
    全石連と安定供給で協力。 
16日 JXエネ・大分製油所、安全確認の後再開。エネ庁は石連に対し、熊本地震に
    よる石油製品の安定供給確保の一環として、各精製元売に被災地の中核SS
    への重点継続供給を要請。
17日 経産省の要請で、全石連・石油連盟が緊急2施設に配送を実施。
    東西オイルターミナル八代油槽所は液状化が発生するも供給には支障なし。
18日 経産省発表、道路の寸断・渋滞で一部SSへの配送が遅延。同省はタンク
    ローリーの配送の増強を要請している。
19日 午前6時時点で熊本県内全797ヵ所中、前日より114ヵ所多い692ヵ所の
    営業を確認。中核SSは34ヵ所中、32ヵ所が稼働。熊本市内の品薄状態は、
    ほぼ解消。益城町では5SS、南阿蘇村で3SS、高森町で5SSが営業中。
19日 午後から元売・JA全農などのWebサイトにて熊本県内の営業中SSを公表。
20日 熊本県内では前日同時刻より34ヵ所多い726ヵ所という9割強営業を確認。
    中核SSは県内34ヵ所すべて稼働。21日は大被害を受けた益城町で
    前日比1ヵ所増6ヵ所。
22日 益城町のSS営業は前日比1ヵ所増の7ヵ所となった。
九州電力の 最大47万戸超の停電発生とその復旧
4月より電気事業に参入した当社としては電気、都市ガス、水道のライフラインが
気になります。まずは九州電力の停電とその復旧状況を調べてみました。
最初の地震での停電は僅か1万4千戸。それも15日夜までにはほぼ復旧しました。
しかしM7.3の本震では47万66百戸が停電となりました。それでも翌日朝には約半分
夜には10万戸を切るまでに復旧し、20日19時には、ほぼ全戸復旧しました。
これはお見事でしょう。
大規模な土砂崩れの箇所の高圧送電線は被害を受けているのに、どうして通電が
再開出来たのでしょうか。それは高圧線の迂回供給ネットワークもありますが、
電源車での供給という最後のアナログ的対応なのです。
九州電力で52台、全国電力9社から提供を受けた110台、応援要員629名
(九州電力発表)によってその通電が支えられているのです。


九州最大の都市ガス 「西部ガス」の供給停止とその復旧状況
 九州の約北半分に導管等で都市ガスを供給するのは西部ガスです。総供給戸数は
110万8千戸。内熊本県は11万2千8百戸です。このうち14日の地震での供給停止は、
最初38千戸と発表されましたが直後に4600戸に大幅下方修正されました。
そして翌日には1123戸にまで減少しました。要するにマイコンメーターの感震シス
テムによる緊急安全遮断がほとんどで、15日18時までに全戸復旧を終えています。
この時点でのガス漏れ箇所は101カ所ですが内75件は復旧済でした。
しかし16日の本震後は、供給停止が10万5千戸と桁違いに増えました。正にM7.3
の恐ろしさです。ちなみに本震から10日後の4月26日時点でも復旧は空き家を除く
10万884戸に対し28100戸と28%までしか進んでいないのが実情です。
導管供給の地震災害に対する弱さを露呈したのだと思います。
しかし西部ガスも全力で対応しています。4月24日時点で西部ガスから1965名。
また全国の都市ガス会社からの開栓応援隊が2639名派遣され、4600人体制で
対応しています。注目すべきはこの2639名の応援の内、東京ガス1社で1300名
と約600台の車両の派遣です。東日本大震災の時が最大で1600名ですから、
最大限の協力と言えるでしょう。
支援物資としてはいわゆるカセットコンロを2万台、ボンベ6万本も順次配布した
ようです。またプロパンガスで疑似都市ガスを作り避難所等に設置する移動式ガス
発生設備も、20日8台(西部ガス)、21日11台(広島ガス、山口合同ガス)、22日4台
(四国ガス)、23日73台(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス)、24日13台(東京ガス、
東邦ガス)、25日14台(東京ガス)と合計123台が、優先順位に応じて医療機関、
学校、特別養護老人ホーム等に順次設置され各所の機能復活に役立っています。
LPガス業界の対応は
熊本県内の全世帯数は約74万戸、内都市ガス供給可能区域に約23万戸です。
その内都市ガスが11万9千戸に供給し、LPガスは、県内約50万7千戸に供給
しているとされています。(出所、都市ガスは日本瓦斯協会、LPガスは、全国
LPガス保安共済事業団の契約戸数)。
 今回の熊本震災に際しては、全国LPガス協会と、熊本県LPガス協会が速報を
発表していますが、4月19日時点でLPガス事故なし火災なし、そして供給途絶なし
と報告されています。
 自宅に住めない全壊半壊は、当然供給出来ない訳ですが、建物が住み続けら
れる程度の損傷の場合には、LPガスの供給設備にダメージはなかったのです。
「LPガスが災害に強い」のは定説ですが、マイコンメーターや流出防止機能付き
高圧ホースの普及の賜物です。
今後現地関係者にお伺いし、実態把握に努めたいと思います。
 意外に情報が少ないのは断水件数の時系列的な復旧数の推移です。本震直後
は県内で最大43万戸断水したとの報告がありますが、24日時点では、2万戸程度
まで改善されて来ました。
非常に少なかった火災件数
消防庁の4月22日発表資料によれば、建物被害は全壊1526棟、半壊1411棟
、一部損壊が2612棟あるにも関わらず、火災が僅か16件なのには驚きました。
理由は真冬ではなかったので、直火暖房の使用が少なかったこと、ガス機器に
おいては、マイコンメーターによる緊急遮断が機能したこと。そして何より阪神淡路
大震災時の最大の火災原因と言える「通電火災」が少なかったことでしょう。
通電火災の防止については、震度5等を感知して電気を遮断する感震ブレーカー
の普及はまだ浸透していないので、何故火災がこれほどまでに少なかったのか。
その理由については、後日調べてみたいと思います。

耐震建築でも倒壊したのか
マスコミ報道を見て遺憾に思うことは、その多くが被害の一番激しいところばかり
を報道していることです。古い民家が倒壊して1階が押しつぶされた写真は何度
も見ましたが、私はその近くにある新耐震の、例えばS水ハウスとかMサワホーム
とか比較的地震に強い建物も二回の震度7で倒壊したのか、それとも何とか持ち
こたえたのかは情報として極めて重要でしょう。
また驚くのは耐震化が進んでいるはずの小学校等の熊本県内の839か所の
避難所の内、40か所が実は危険であることが分かり、避難者の移動を余儀なく
されたことです。予算の問題はあるとは思いますが、是非改善してほしいと
思います。
今後避難生活は長引きそうですが、仮設住宅の建設には、1〜2か月かかる
とのこと。避難者数はピークで10万人。今でもまだ4万人もいるので、そのご
苦労を思うと心が痛みます。
熊本地震の尊い教訓を首都直下型に生かす
今回の熊本地震は実は初めての経験が沢山あると思います。短期間に
震度7が二回。耐震建築でも震度7で複数回襲われることは想定外だそうです。
また最初のM6.5の地震からまもなく、規模にして10倍以上のM7.3の本震
が来たこと。そしてグラフの通り一連の余震が10日経っても収まらず、避難
生活が長期化していること。
またSS業界から見ても、東日本大震災の時の事例とはかなり違います。
あの時の被災地は、地震ではなく津波被害なので発電機があってもSS
復旧は簡単には出来ないでしょう。
一方首都圏は、地震被害は少なかったのですが、製油所の再稼働の遅れ
被災地支援によるローリー不足、そして計画停電等の心理的不安で、ガソ
リン不足の長蛇の列は、1週間から最大2週間続きました。あの時は首都圏
での避難所生活などまずなかったにも拘わらず長蛇の列だったのです。
今回の熊本地震のように首都圏で震度7が二回も襲って来たら一体どう
なるのでしょう。避難者数は1割としても100万人。避難所は恐らく一杯で
車中避難が発生し、アイドリング需要も増えるでしょう。
もっとも東京に車中泊が出来る広大な公園や駐車場などはありません。
SSの被害もあるでしょう。道路寸断でローリーの配送遅延も発生しそうです。
新耐震の自宅建物も危険と判断されたら1000万人の都民はどこに避難
すればいいのか。都市ガス応援隊も今回の事例で、結局半数以上を東京
ガス1社で出しています。
従って首都直下型地震の場合、各地からの応援は期待出来ないのです。
要するに首都圏では最低1週間、自分の身は自分で守るしかないのです。
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現地の写真3枚 と 地震発生回数の推移のグラフ(気象庁発表)
新耐震と思われる家と倒壊した旧家

後方の3階建は無事 倒壊した旧家

LP容器も転倒防止チェーンで無事