どこまで下がるか原油価格
 その原因、今後の予想、低価格の影響を考える
あなたは昨年1月以降の原油下落企画の 番目のお客様です。
皆様ご存知の通り原油価格は、6月までWTIで60ドル台でもみ合っていましたが、7月より
急落を始めました。そして2015年3月18日につけた最安値42.03ドルをあっという間に割り
精神的な底値と思われていた40ドルを難なく下回り、8月25日には、38.16ドルの最安値を
記録しました。原油市場に一体何が起こったのでしょうか。本HPでは本年1月
「どこまで下がるか原油価格」を掲載しておりますので、是非もう一度ご覧下さい。
でも今回の値下がりは、この時説明した下落要因だけでは説明がつかない気がします。
そんな訳で今月は、昨今の原油価格の値下がり状況の把握、私個人としての今後の予想、
その原油安値や更には原油に連動する資源価格の値下がり状況。それが及ぼす影響を
考えてみたいと思います。尚、9月からまた講演シーズンとなります。9月16日東京、
10月1日横浜、10月16日函館、10月21日群馬、11月18日山形に訪問予定です。
 本HPをご覧の方は、講演会場で是非お声掛け下さい。
                  2015年8月31日 9月2日チャート更新  文責 垣見 裕司

NY WTI期近つなぎ価格の推移  2014年6月高値から日足で見る
まずは下記チャートをご覧下さい。これはNYのWTI価格の日足期近つなぎです。
2014年6月25日高値107.73ドル以降下落が始まり、2015年1月29日の43.58ドルまで
ほぼ一本調子で下げました。その後50ドルを挟んでもみ合い、3月18日に42.03ドル
の最安値を付けたあとは上昇し、5月から7月までは、60ドル付近で、長らくもみ合っ
ていたのです。従って業界関係者の間では、シェールオイルの開発コストは、原油
に比べれば安くないので、今後は徐々に値上がりしていくものと思っていました。

下落原因 その1 需給関係要因
原油価格下落の最大要因は、やはり需給バランスの崩壊でしょう。具体的には
1 米国シェールオイルの増産で2014年の国別生産量は米国が世界1位となった
2 価格下落でシェールオイルの生産は急落すると思われていたが、先物予約
  していた数量も相当あり、産出中のリグ数こそ減ったものの、技術の進歩等で
  開発コストや生産継続コストもそこそこ下がり、予想された程、生産数量が
  減少していないこと。
3 最大のエネルギー爆食国だった中国の急激な景気減速傾向が明らかとなった
4 イラン核協議が2015/7/14に合意に達し、経済制裁の解除とともに、100万BD
  程度の原油輸出が徐々に増えてくると予想されている。
その他 世界的な景気減速や省エネ効果もあり、需給は、逼迫よりは間違いなく
緩和に動いていることが決定的だからです。でも以上のことは、5-7月の段階でも
分かっていたことなのに、7月から再度急落した原因は何なのでしょうか。

下落原因 その2 世界的な株価市場下落
下記チャートをご覧下さい。上は上海株価の総合指数。二つ目はNYのダウ平均
下は東京の日経平均株価の日足推移です。7月のギリシャ危機では、一時下落
したものの何とか最小限の影響で済みましたが、中国上海市場の株暴落は、
世界同時株安の引き金となりました。
私見ですが、中国上海市場の高騰は、中国政府にとって必要だったのです。
中国の実態経済は回復せず賃金の伸びも鈍化。地方政府の強引な開発が
各地で頓挫し、不動産価格も大暴落。そして益々貧富の格差が拡大する中、
中国人民の不満が爆発しないよう株式市場で儲けさせて、そのガス抜きを
しようと思ったのはないでしょうか。しかし、相互取引などの結果、想像以上の
スピードで中国の株式バブルが発生してしまったのでしょう。それは政府にも
もうコントロール出来ない状態まで来てしまったのです。
そして、6月下旬以降、株価の下落を食い止めるため、政府はなりふり構わ
ない思い切った対策を打ち出しましたが、その対策は、日本では考えられ
ないものも含まれています。中央銀行による利下げや流動性の供給までは
まあいいとしてもIPO(株式の新規公開)の制限、政府系証券会社などには
株式買い入れ命令?、そして下落しそうな株式の売買の停止です。
政府は思い切った対策を打ち出すことで、投資家の信頼を回復させたかっ
たのでしょう。6月末から7月8日までの間、上海の株価は約18%下落したも
のの、政府のこれらの対策の発表で、7月9日、10日の間に相場は10%反発
しました。しかし結果とし化けの皮ははがれ、6月12日のピーク5178から
8月26日まで、僅か二か月半で55%も大暴落したのです。
でもそれはある意味当たり前で、単に1-2月の水準に戻っただけなのです。
しかし、NYのダウや日経平均までつられて下がった結果、リスク回避等の
目的で、株式同様、投資資金が原油市場から急速に逃げて行った。
これが1月までの原油価格暴落にはなかった 第二の原因だと思います。





原油輸入通関価格を円換算で見る

では、日本の原油輸入CIF価格はどのくらい下がっているのでしょうか。
通関価格は、上旬中旬下旬と月3回しか発表されないので、デイリーの価格変動
を表現することは出来ません。よってTOCOMの東京原油市場の価格で表現して
みたいと思います。実際の通関価格は、中東諸国から日本に到着するまで、
およそ20日程度遅れると思って下さい。
下記グラフがTOCOM東京原油の期先つなぎです。(本来は期近つなぎにすべき
ですが、データ量が少なく良い日足4本足にならなかったので期先にしました)
昨年6月に約70円/Lを付けたあと下落。1月には一時36円割れをするも5〜6月
には40円付近でもみ合っていました。それが7月に入って急落し始めたのです。


日本経済への影響  資源価格の値下がりは国富流出の減少となる
2015年5月企画でお示しした表の通り、日本は資源輸入大国で、総輸入金額の
30%を原油、LNG、LPG、石炭で占めています。2013年度の原油は69円。2014年度
は61円ですから、上記表の最安値の32円等30円台は如何にも安すぎますが、
今後40円台が続けば、2015年度が50円で収まる可能性は十分あると思います。
昨年度比、約2億KLの原油が1Lあたり10円が安くなるとすれば、計算上は2兆円
もの国富の国外流出がさけられる訳です。
同様に原油価格にほぼ連動しているLNGやLPG価格も下がりますので、日本に
とっては、エネルギー価格、あるいは生産コストが下がるという意味では誠に
良いことです。もっとも今回の値下がりは、世界同時株安というマイナス効果の
影響とどちらが大きいかは、私にはわかりません。しかし先進国の中でも極めて
エネルギー輸入比率の高い日本にとっては、先進国間の相対的な競争力で
考えれば、資源価格が安いことは、日本には、やはり良いことでしょう。
石油元売各社にとっては 販売面は〇も 資源開発部門は△ 
昨年度の石油元売各社は、ほぼ全社大幅赤字でした。主な要因は80数日間の
民間備蓄や流通在庫の在庫評価損です。在庫評価損だけなら、一回のこと
ですし、値上がりすれば今度は評価益が出ますので、それほど問題でありません。
また末端価格の下落は、近年長期低落気味の末端需要の下落抑制効果は
多少あるので、販売部門だけで見れば、マイナス要因ではないはずです。

しかし現在、石油元売各社はなかなか販売部門で利益を上げることが出来ず、
一昨年に比べ下がったとは言え、まだまだ開発部門で利益を上げているのが
現状です。その利益の源泉が大幅に圧縮されるのは極めてつらいことでしょう。
また上場会社にとっては、在庫評価損と言えども、三期連続で赤字は、絶対
出すわけにはいかないのです。
原油価格の下落は、元売再編をより後押しする
元売各社の収益が原油開発部門に頼れないとすれば、本来の精製と販売で
あるべき収益を稼ぎ出さなくてはなりません。精製設備廃棄をすればいいと
総論レベルで言うのは簡単ですが、どの会社のどこの製油所を削減するか
廃棄するかという各論となると、大変なのはよく分かっています。
従って現在の会社が1社ずつで製油所廃棄を考えるは難しいかもしれません。
社員も地元も納得しないでしょう。そうなれば、単独での精製設備廃棄より
先に、元売会社のより深い業務提携か経営統合が必要となってくるでしょう。
 もはや企業文化が違うので無理などという、悠長なことは言っていられない
のかもしれません。
その意味では、最近東燃ゼネラルから「当社はもはや民族系です」という発言
が聞かれるのも、何が起こってもおかしくないという前触れかもしれません。
先月紹介した出光による昭和シェル株の買収が(経営統合についてはこれから
 なので今決まっている事実株の買収までです)当局主導だとは申しませんが
当局の意向が全くないとも、言い切れないでしょう。
 しかしこれからの再編は、当局の意向がより強く反映されるようになると思い
ます。特にコスモ石油がどうなるか。JXや東燃の動向とともに注視していきます
産業競争力強化法
読者の皆様は、「産業競争力強化法」をご存じですか。平成25年12月4日に成立
したこの法律は、アベノミクスの第三の矢である閣議決定された「日本再興戦略」
に基づき、日本経済を再生し、産業競争力を強化することを目的としています。
その為には 日本経済の3つの歪み、すなわち「過剰規制」、「過小投資」、「過当
競争」を是正していくことが重要であると書かれています。石油業界はまさにこの
「設備過剰による過当競争」に悩んでいる訳です。具体的には、
収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの産業の新陳代謝を進める
ことで、我が国の産業競争力を強化します
。 と書かれています。
従来私は、国は過度の業界干渉をすべきではなく、自由な競争に任せるべきと
思っていましたが、元売がここまで疲弊し、何もしないでいると2期3期連続赤字で
結果海外の巨大資本に買収されるようなことになると正に国益に反する訳です。
実は我々末端業者もかなり疲弊してきたのを実感しています。例えば゛弊社なら
洗車以外のコーティングやレンタカーは、ここ7-10年で始めた事業なので、長期
の事業計画ではその分、大幅黒字に転換していなければならないはずですが、
実際は、燃料油部門の数量減と粗利益減が激しく、微々たる黒字となっています。
従ってもはや国による業界再編のカンフル剤も必要だと思うようになりました。
この法律の手始めは、50条に基づく「業界の調査」という形で、ずばり、設備
廃棄や再編を促しています。2014年6月の初適用は、正に石油精製業界でした。
その後2014年11月は石油化学業界、2015年の6月には、普通鋼電炉業界と
板ガラス業界にメスが入りました。。そう全部がいわゆる素材産業なのです。
一石油業界人としては、政府から印籠を渡される前に、自分たちで世界企業
と競争していけるだけの企業再編を実施してほしいものと思います。