石油+ガスエネルギー業界に
 とっての電力自由化を考える
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                                   2015/6/29 更新 Ver1   

最近驚くのは、新聞取材や講演依頼の中に「電力自由化について聞きたい」が
急増してきたことです。新聞社に了解を取りましたので、よかったら下記をご覧下さい。
ガスエネルギー新聞5月25日4面「自由化への選択、有力LPガス事業者に聞く
その他、業界新聞系の夏季セミナーや、超有名ガス会社からもご依頼がありました。
会社も私も「変化する環境に挑戦し続ける遺伝子」を持っているので、90分じっくり
お話し出来る内容はあるのですが、その内の30分は、そのまま弊社LPガス部の
電気自由化戦略なので、今はまだお話出来ないというのが正直なところです。

 しかし電気の自由化について何の実績もない私に何故聞いて来るのでしょうか。
やはり「本命のビジネスモデル」が、まだ明確になっていないということなのです。
だったら新しもの好きの垣見がどう思っているのかを聞きたいということのようです。
 7月某日にはJXも遂に特約店向けに電気事業の説明会を開催します。それを
聞いてからだと、特約店としての道義的守秘義務が発生してしまいそうなので、
まずは弊社の電気事業戦略以外の総合的な解説をさせて頂きたいと思います。
                                     文責 垣見 裕司

既に始まっている電気の自由化
電力業界が行って来た過去の自由化と規制緩和からご説明します。電力業界の
最初の改革は1995年です。特定電気事業制度が創設され、卸供給事業すなわち
電力会社以外の会社が、石油やガス火力等独自の方法で発電し、それを電力会社
に供給することが可能となりました。しかしその卸売価格は、1kW当たり約5-6円で
発電事業者としては、赤字を出さないというのが精一杯のレベルでした。
その具体例として、当時の新日本石油が根岸製油所にて残渣油で発電した電気を
東京電力に売る事業もこの規制緩和で開始しました。
そして2000年からは、電力の卸売りだけでなく、2000kW以上の大規模工場向けの
売電が自由化されました。送電線は電力会社のものを使わせてもらうわけですから、
大口の自由化と同時に送電線の託送ルールやその費用なども決められました。
この時点では自由化された顧客数は僅かですが、使用量は大口なので、全販売量に
占める自由化の割合は何と26%にもなりました。
続いて2004年4月からは500kW以上、2005年4月からは50kW以上が自由化され、
その自由化割合は63%にまで拡大しました。
この50kW以上とは、正に小規模ビルのレベルで、垣見油化の麹町本社や隣接する
別館ビルもこの規模なので、当時の新日本石油から電力購入を始めました。
その後電力業界改革を決定的に後押ししたのは、東日本大震災と原発事故です。
2013年度に電気事業法が改正、諸手続き等の検討を経て 2016年から一般家庭用
の小売の自由化も始まることととなりました。

安い安定した電力会社と如何に提携するか

電力の小売事業を考えるに当り、少なくとも数十万kWクラスのローコストの発電所
を作る資金等がない超巨大会社以外の会社にとって一番大切なのは、安い安定
した電力を供給してくれる会社と如何に提携するかでしょう。
勿論、後述する日本電力取引所という いわゆる卸売市場から購入してくるという
選択肢も一応はありますが、1日を48分割し、全ユーザーの30分ごとの使用量を前
もって予測し、それと同じ電力を「同時同量」で24時間365日提供続けなければ
ならないので、片手間で出来る事業ではありません。
 以下 資源エネルギー庁HPより取得した、新電力の過去2年間の発電状況です。
株式会社エネット(NTTファシリティーズ40%、東京ガス30%、大阪ガス30%の出資)
がエネットが絶対的1位で、他社を圧倒しています。JXエネルギーは第4位です。
新電力会社の発電量 出所 資源エネルギ庁発表を筆者集計千kWh

     

発電コストを考える
では、上記の新電力各社の限界発電コストを計算してみましょう。火力発電なら
その変動費である燃料費は、1kWh当り幾らになるかということです。

@石油系火力で原油生焚き場合
   原油1バレル60ドル 為替125円/$ 原油CIF47円+税金等で50円 とします。
   発電効率を最大40% とします。 原油の熱量は 38.2MJ/L ⇒ 1.31円/MJ
   1kWhは3.6MJ よって 1.31円 x 3.6MJ ÷ 発電効率 40% =
11.79円
   発電機そのものの原価回収がゼロだとしても、モノジェネでは赤字なのです。
   JXの垣見油化本社ビルへの電力供給は送電線使用料が推定5円だとすれば
   どう考えても赤字のようです。

A JX根岸製油所内の発電所の燃料は残渣油
   上記@のコストは原油の生焚きの場合です。
   商品価値がもう少し低い、例えばアスファルト
   等に近い残渣油なら、源燃料代は 1-2割
   安いかもしれません。右写真はJXの根岸の
   発電能力43.1万kWのガス化複合発電所。
   (東電への売電量は34.2万kW)
   どちらにしても 10円/kWhの発電コストは
   一つのベンチマークだと思います。

B 垣見油化瑞穂LPガス中核充填所内のLPガス非常用エンジン発電機の場合
   同様に瑞穂充填所の発電機でLPGエンジンを使って発電したとしても、お湯が
   使えないモノジェネです。また発電もレシプロエンジンだと、発電効率はせいぜい
   20%。どんなに安くても 20円以上なので、発電機の購入費+維持コストがゼロ
   だととしても東電の高圧電力Aの 15-16円よりどうしても高くなります。
   弊社が非常時しか、LPガス発電機を回せないは、この辺の理由もあります。

最新鋭 天然ガス発電器なら発電コストはいくらか
実はこの企画を書き始めた時、ビッグニュースが飛び込んで来ました。
JXが51%、東京ガスが49%共同出資する、川崎天然ガス発電株式会社が、現在
稼働中の 1、2号 発電機 各423,700kW 発電効率57.6%(低位発熱量ベース)に加え
最新鋭のガスタービンコンバインドサイクル発電設備 約55万kW×2基 を2021年に
向けて増設すると発表したのです。
 では、この絶対発電コストを計算してみましょう。発電効率は余裕を見て55%。
LNG価格は2015年3-5月のLNG輸入価格の平均から少し余裕を見た70円/kg。
 LNGは 54.5MJ/kg   1kWh=3.6MJなので 
 70円/kg÷54.5MJ/kgx3.6MJ÷発電効率55%=
8.41円/kWh
と言う数字が出てきました。 原油の生焚きよりは明らかに安いようです

卸売電力市場から買って来る

自分で発電するとコストが高いと言うなら卸売市場で買ってくれば良いではないか。
発電所を作る必要がないので、これも一理あります。一般社団法人
日本卸電力取引所(JEPX) は日本で唯一の卸売電力取引所です。
設立は 2003年11月28日です。取引会員数は、現在113社。詳細な会員社名は
以下HPの通りですが、東京電力始め10電力会社、大手都市ガス会社。石油元売
各社の他に、我々と同業のLPガス大手販売会社の名前も見られます。
1日を48分割し、30分ごと単価と電力量を株式市場の売買の様に取引しています。
これが販売量と売電量を30分単位で同量にする「同時同量制度」です。すなわち、
JXエネルギーと垣見油化本社ビルの例ならば、本社ビルに設置した通信機能付き
のスマートメーター等で、その使用量をリアルタイムで監視して、それと同じ数量を
東電管内の幹線を使って、東電に引き渡す(返す)という感じでしょう。
では、気になるその取引相場は以下は6月のとある1日の取引価格です。


東京電力料金体系を徹底研究

前述の通り深夜は10円前後と非常に安いので、東京電力が深夜にヒートポンプ
でお湯を沸かす 「エコキュート」を開発した理由が良く分かります。
しかし需要の増える日中は15円以上になります。送配電線網を持たない新電力
会社にとっては、この市場からの仕入れとともに、5-6円の送配電線使用量を
払う訳ですから、冒頭説明した50kWh以上の高圧小口の16-17円前後では、
その収支は非常に厳しいのが分かります。

では次に単価が一番高い家庭用の電気料金の体系を東京電力の例で考えます。
最も一般的な家庭用の料金体系の「従量電灯B」は、ブレーカーの容量に応じて
決まる基本料金と従量料金と燃料費調整額他の合計となっています。

@ 基本料金
   10A   280円80銭      20A   561円60銭    30A  842円40銭
   40A  1,123円20銭      50A  1,404円00銭    60A 1,684円80銭

A 従量料金は、1kWh当たりですが、使用量で三段階に分かれています。
   最初の120kWhまで    (第1段階料金)     19円43銭
   120kWhをこえ300kWhまで(第2段階料金)      25円91銭
   上記を超過した場合   (第3段階料金)      29円93銭

B その他に、燃料費調整額や 再生可能エネルギー発電促進賦課金
   現在は1.58円/kW、口座振替割引なとがありますが、詳細は省略します。
 
C 仮に基本60Aで2015年7月に600kWhを消費したユーザーの料金を調べると
   以下表の通り18457円となりました。https://www2.kakeibo.tepco.co.jp/ratesim/

D 同様に基本40Aでは、120kWhの少口ユーザーの料金は3570円です




意外と安い最低料金 意外に高い大口家庭用ユーザー

一般的な経済原則では、使用量が多ければ、電気単価は安くなりそうですが、
一般家庭料金だけは別なのです。これは国家として、国民が最低限の生活
レベルを過ごせることを配慮したものだと聞いています。
従って基本料金が40Aの1123円で使用量が120kWhの3,570円は極めて安価です。
では、改めて600kWhを使う大口ユーザ―との料金差を考えてみます。

18,457-3,570=14,887円は480kWh購入費であり単価は31円と実は高いのです。
但し、ブレーカーを60Aから40Aに落とし、その基本料金の差、1684円-1123円=
561円も480kWhの単価に上乗せしているからくりはあります。逆に言えば、
この基本料金を下げて1年に1-2度くらいは、使用量オーバーでブレーカーが
落ちるくらいが、電気料金の節約的には、適正契約容量だと言えるでしょう。
どちらにしても、2016年4月の自由化においては、このような600kWhを超える
大口の家庭用が最大のターゲットとなるでしょう。

送配電線使用料は幾らになるのか 顧客管理や緊急対応コストはどうはじくのか

現在、50kW以上の6000Vの高圧小口分野は、既に自由化となっていますが
その送配電線使用料金は、1kWh当たり約5円程度と思われます。では
100-200Vで供給される低圧の一般家庭用や小規模工場、店舗等への送配電
線使用料金は幾らになるのでしょうか。実はこれがまだ公表されていません。
高圧同様5円だという話から、場合によっては10円という話も聞くので、今後、
PPS業者となって電力事業を始める業者にとっては最大の関心事でしょう。

 新電力会社にとってもう一つ悩ましいことは、24時間365日の監視かつ
緊急出動体制を取らなくてはいけない訳ですが、そのコストをどう見るかです。
 弊社垣見油化も東京都下を中心に直接間接LPガスのお客様を数万件単位で
有しており、めったにないガス切れやガス漏れ等の緊急出動体制を整えています。
 ガス切れの場合は、深夜にお電話を頂いたとしても、配送は明日の朝まで
でいいという場合もあります。しかし電気の場合は、明日朝という訳には
いかないでしょう。送配電線は従来通りですから、停電等の確率は、東電も
新電力も同じ訳ですが、例えば漏電ブレーカーが頻繁に落ちるので一度
見に来てほしい等の対応は、新電力会社がいかなくてはならない訳です。

SS業界に出来ること LPガス業者に出来ること 簡易ガス業者に出来ること

SSではガソリンや灯油等のエネルギーを扱ってはいますが、ご家庭に入り込む
という点では、灯油をミニローリーでご家庭へ配達に行ったり、あるいは灯油の
ファンヒーター等を積極的に販売している業者でない限り、自らPPS業者になる
ことは、かなり難しいと思います。
従って、一般のSS業者おいては、JX等元売が提案する新電力事業の方針に
乗っ取り、新規獲得手数料や従量料金的な手数料を得るのが現実的な選択と
思います。

LPガス業者においては、新電力事業をやる目的は、営利事業としての新電力
ではなく、既存のLPガスユーザーの防衛が、第一目的となるでしょう。
発電コスト、あるいは卸売相場の価格、送電線使用料、スマートメーターの設置
1日を30分ごとに分けた同時同量売買コスト、そして顧客管理&緊急対応コスト。
一部の販売店等に見られる、問屋への丸投げ的な発想では、自らPPS業者に
なることは、難しいでしょう。あるいはうまく事業開始出来たとしても、各顧客から
得られる利益がLPガスとは比べ物にならない程少ないことに驚くかもしれません。
 しかし、LPガス業者も特約店クラスや販売店大手には是非挑戦してほしいと
思っていることがありますが、これは弊社LPガス部の電気事業戦略そのもの
なので、このHPにおいては控えることにしたいと思います。

提携で防衛する東京電力VS大本命は、東京ガス等大都市ガス

ガスの自由化までの一年間は、攻められるばかりの既存電力会社ですが、
取りあえずは、異業種との提携で乗り切る戦略のようです。あくまで新聞発表
レベルですが、例えば東京電力が提携した先は、私が確認しただけでも下記の
10数社に及んでいます。しかしポイント業者と組めばそれは新たなる出費となり
ますし、そもそもJX系の私でさえ、自社発券のTカードは勿論ですが、ローソン系
PONTAカード、7-11系nanacoカード等すべて所持しているので、提携だけで
固定化や囲い込みは難しいと思います。やはり防衛価格でしょう。
 東京電力との提携が見込まれる企業名 (筆者推定)
電力会社   中部電力 発電や燃料調達での提携か
ポイント Ponta ローソン 三菱商事系 約6950万人
 T-POINT 約5300万人
LPガス TOKAI LPガス57万軒他 日本ガス LPガス70万軒
通信会社   docomo 6600万件 KDDI 4300万件 SoftBank 3700万件
これに対し攻める本命は東京ガス等大手都市ガスがやはり圧倒的に有利でしょう。
LNGの輸入価格やLNG発電設備や効率等は、東京電力と同じにしても、要望
があれば全ての国民に等しく供給しなくてはならない東京電力に対し、ある意味
儲かる顧客だけに販売すればよいこと。一応24時間の緊急出動体制があること。
更には、私オリジナルの送配電線利用料を全く払わなくてよいビジネスモデルも
あるので、その圧倒的有利さは揺るがないと思います。
その都市ガスやLPガス
業者の理想のビジネスモデルは。講演でお招き頂いた時にオフレコでお話します。

これだけは知っておきたい電力業界用語や区分

以下電力業界を考えるにおいて基本となる事業者区分とその販売可能先
そして供給する電力区分を明確にしておきたいと思います。