どこまで下がるか原油価格 その原油価格決定メカニズムを考える |
下記のグラフは 財務省(旧大蔵省)発表の日本の輸入原油価格の推移です。欧米メジャーからOPECへ価格決定権が移った時代
日足や週足と違い年度平均は、過去3回のオイルショックも緩やかな推移です。
この表からわかることは、@1972年以前はとても安かった。それが
A第1次オイルショック 1975-77年と
B第二次オイルショック1979-1982年でとても高くなった。
Cしかし省エネ等が進み、長らく低迷期を迎えた
Dそして2005年以降の高騰で2008年と2012-13年が高くなった
ということが分かると思います。
但し 当社HPはもう少しマニアックにそれぞれの意味の違いを把握しておきます
1973年以前、原油の価格は、メジャーと呼ばれる欧米の巨大石油会社が事実上スポット市場の誕生で 価格決定権はOPECから現物市場へ
決めていました。中東諸国から見れば、自国で産出された主要輸出品であるにも
かかわらず欧米企業によって、その価格が隷属的に支配されていたのです。
確かに、探査し、開発し、パイプラインや出荷用の港湾施設等をつくったのは
欧米メジャーの資本です。しかし、1バレル=3ドル以下というのは、事実上の
価格支配といっても過言ではないでしょう。
そんな中で、「それはおかしい」という資源ナショナリズム的な意識が中東産油国
に高まり、中東戦争を機に完全に売り手市場となりました。
1975年の12ドルや81年の37ドルという価格は、第一次、第二次石油危機を経て、
産油国の思いが反映し、価格決定権がメジャーからOPEC(石油輸出国機構)に
移ったことを示しています。
あるべき姿は70ドルと株式新聞でもはっきり宣言しております。
二度にわたるオイルショックで高騰した原油価格は、消費国に節約や省エネ意識を
生み、消費設備などの省エネ技術が進むと、消費国の需要は減り始めました。
その結果、産油国で生産された原油のうちの過剰分は、世界の現物市場に流れ
始め、やがてOPECやメジャーでも力が及ばないスポット市場が誕生しました。
そのスポット市場での価格が、産油国政府が決めた政府公示価格を常に下回り
続ける状態が続くと、OPECもこの価格を無視できなくなり、価格決定権は「市場」
に移ることとなりました。1990年にイラク軍がクェートに侵攻した湾岸危機で原油
価格は一時高騰しましたが、これは産油国が輸出政策ではなく、市場の経済原則
に従ったものです。 下記は30年間のWTIの月足ですが変動が明快になりました。
現物市場からペーパー市場へ
スポット市場での価格変動のリスクを少しでもヘッジするために生まれたのが、金融市場から現物市場への転換か
本来の意味での先物市場です。先物市場そのものは以前からありましたが、
原油が本格的に取引されるようになったのは、1983年にニューヨーク商業
取引所が誕生してからです。
そして、ロッテルダムやシンガポールなどのタンカーが行きかうイメージに代表
される現物の石油市場から、ペーパー取引(後に電子取引)である先物市場に、
徐々に原油価格の決定権は移っていきました。
この先物市場に石油の売買を本業とする現業者だけでなく、資金の運用を目的
とするいわゆる「投資家」も入ってくるようになり、その規模は年々拡大しました。
WTIの実生産量は日量40万バレル程度(世界生産量の0・5%程度)ですが、
先物市場で取引される量は、その1000倍ともいわれます。この点からすると、
先物市場は、価格変動リスクのヘッジという本来の目的から、原油や石油業界
関係者ではない単なる投資家が「利益を得るための投資市場」へ、その目的が
変わっていったといえるでしょう。 以下はWTIの週足のローソクグラフです。
ここまで細かくすると市場の異常さがお分かり頂けると思います。
原油価格は、2008年から翌2009年1月までの間、2度も乱高下をしました。原油価格の 高騰要因 下落要因を考える
産油国で戦争が起こった訳でもなく、ホルムズ海峡が封鎖された訳でもないのに
90ドルから147ドルへの急騰で、正に行き場を失ったマネーが入って来たのです。
それは正に2008年9月22日。たった1日で安値103ドル高値130ドルの暴騰に現れ
ています。東商の株価ならストップ高でその日は終わりですが、たった5分のサー
キットブレイクがあるだけで、事実上青天井価格なのです。
それが、リーマンショックにより化けの皮がはがれて2008年後半の大暴落となり
ました。流石に50ドル割れは、安すぎると思い、40ドルを割った時はは、私も先物
を買おうと思いましたが、何と数年先物はかなり高かったので断念した次第です。
その後は、投機筋も少しは反省したのか、長い意味では相場は安定し、その結果
昨今は、下値85-90ドル、上値110-115ドルのBOX圏でもみ合っていました。
これは私見ですが、最後の最後はやはり実需バランスではないかと思います。
今までこのBOX圏にあった理由としては、それ以上長く高値が続けばシェール
オイル開発が促進されて需給が緩和します。
85ドル以下となれば、多くのシェールオイル開発が赤字で減産を余儀なくされる
だけてなく 新規のシェールオイル開発が凍結されるのからです。
実は、シェールオイル開発は業者にもよりますが、大企業ばかりではないそうで
先物で売り予約をかけてからでないと、銀行が開発資金を貸してくれないという
話を聞いています。以上の絶妙のバランスでそのBOX圏相場は保たれていた
のではないとか思います。
高値要因 過去暴騰する時の要因です。中東産油諸国VS米国シェールオイル開発業者なのか
@地政学的なリスク。中東情勢の不安。民主化問題。イスラム国問題。
イラク問題。イラン核開発問題。ホルムズ海峡封鎖。そしてウクライナ問題等。
A需要拡大要因
中国やインド等の近代化に伴う需要増。石炭から石油へのシフト。
B米国経済の回復
C投機資金の原油やエネルギー市場への流入
下落要因 今回にも当てはまります。最近のニュースも加えのました。
@シェールガス技術に伴うシェールオイル等非在来型原油の増産。
A上記理由等による米国在庫の上昇(WTI<中東原油の格差拡大)
B中東及びOPEC諸国の10月原油生産量の1年2か月ぶりの高水準
C中国や欧州等の景気後退による需要鈍化(IEA世界需要予測下方修正)
Dにも関わらずOPEC総会での目標生産量の現状維持決定
E地政学的リスクの相対的軽減
F金融市場等の影響(投機資金の原油やエネルギー市場からの流出)
下記グラフ各油種の月次平均推移です。WTI<ドバイ<ブレントの傾向です
今回の急落の最後の一押しは、11月のOPEC総会で加盟国が減産を決議出来エネルギー輸入国日本としては安い方がいいが、マイナス面も考える
なかったことでしょう。有識者によれば、原油産出コストの安い中東諸国が、産出
コストの高いシェールオイル開発業者を潰すため等の積極的な見方もありますが
それは結果論であり、誰も守らない減産を決めて失敗するよりは、何も決めず
というか何も決められず、現状を追認したというのが実態ではないかと思います。
しかし今回の急落で、一番影響を受けているのは、米国シェールオイル業者
ではなく、ずばり世界最大の原油生産会社ロスネフチ(ロシア石油)やガスプロム
等の国営エネルギー会社かもしれません。その影響はロシア経済にも波及中で、
欧米からウクライナ問題での経済制裁がボディーブローのように効いたいた中で
今回の急落は、本当に辛いでしょう。その証拠が通過ルーブルの急落です。
以下グラフのようにロシアRTS指数は7月から約半額。またルーブルも
1ドル35ルーブルから、70ルーブルへたった4か月で半分の価値になりました。
それも、通貨の基準金利を事今年だけても6回も値上げし、12月16日には
政策金利を、それまでの10.5%から、17%へと6.5%も一気に引き上げました。
円の金利は実施0%ですから、6.5%も一気に引き上げたり、17%という金利
事態、個人のカードローンより悪い数字なので、もしこれは金融危機と言える
かもしれません。事実12月18日前後からは、ルーブルから他の通貨への
換金が止まっているとの話も既に聞いています。
また、欧州の金融機関もロシアにかなり貸し込んでいるので、欧州金融も
またぞろ金融不安に陥るかもしれません。 グラフ提供SBI証券
さてご存じの通り日本は石油の99.6%よ輸入しております。同様に天然ガスも石炭
もほぼ輸入に頼っています。要するにエルギーを輸入するために貴重な外貨や
国富が資源輸出国に流出しているので、短期的には大いに喜ぶべきと思います。
特に日本のLNGの長期契約は原油熱量リンク等が多いのでLNGも下がります。
またLPガスの輸入価格であるサウジのCP価格も下がっていますので、一般
国民的には大歓迎です。
但しこれだけ一気に下がると新規のシェールオイル開発は激減するでしょう。
深海での開発も見送られると思います。ということは何年後かの急騰につながる
懸念もあります。
また国内業者も大手は多かれ少なかれ先物をやっています。例えば夏場の安い
時に灯油の先物を買っておいて、冬に現物で受け取るのは、先物市場に現物の
タンクを持つのと同等の効果があるからです。元売の備蓄や流通在庫損もそう
ですが、中小現物業者の倒産がないことを切に祈ります。
最後に、原油価格の今後ですが、業界人の常識的には、もう底値のような気が
しますが、WTIの期近ではなく 例えば2017年6月ものも65ドルまで下がっている
一部のアナリストが言うように40ドル台もあるのかもしれません。何れにせよ
今後の原油相場やロシア情勢から目が離せません。本年もよろしくお願いします。