東日本大震災&電力関連データアラカルト
 原発事故コストを聞いて唖然、政府&電力会社の信用は

本報告の 番目お客様です。Ver3 11/2 初掲載 開始時24600
5月企画の最後に震災後の業界はどうなるのか等の疑問も含めて、メモ程度に書いた
編集後記と業界の重要課題が大反響。決して私がその明確な答えを持っている訳では
ないのですが、私見でよろしければ、謹んで紹介したいと思います。 文責 垣見 裕司

日本国内のタンクローリー等物流能力はここまで減っていたのか
まずは、下記の表をご覧下さい。これは石油連盟が毎年発行している
「今日の石油産業2011」のサプライチェーン重要性を見たのがきっかけでした。
原油は確かに備蓄しているが、製油所で精製して、製品にして、沿岸タンカーや
タンク車で全国各地の油槽所に運んで、そして最後はタンクローリーで運ぶ。
このサプライチェーンが全てうまくいって、SSはガソリンが販売出来るのです。

今回の震災で、製油所や沿岸の油槽所が完全に被災してしまった東北沿岸部は
関西方面等から300台のタンクローリーの応援を得て、4月初旬には、パニックは
解消されました。一方地震の被害が少なかったはずの首都圏でも、パニックが
解消されるまでには、2週間かかりましたが、その一つの要因がタンクローリー
の不足だと言われていました。そこで私は、以前はどうだったのかを調べるために
1995年まで遡ってこの項目を調べみたのですが、驚愕の事実が分かりました。



1995年3月末に17744台あった、タンクローリー(白油黒油含む)は、2010年3月末は
何と6966台まで減っていたのです。その間、届け先のガソリンスタンドは、3分の2に
減りましたが、タンクローリーは、元売の合併や計画配送、更に深夜のSS側の無人
受入対策までして効率化したので、ある意味、余裕がほとんどない状態だったのです。
同様に表の中ほどに列にある沿岸タンカーも、1156隻から約半分の、612隻。これは
火力発電所に電力用C重油を運ぶ時に使用してきた訳ですから、急に倍にすると言わ
れても、簡単に対応出来ないだろうことが、容易に想像出来ます。

原発代替の火力発電 その使用燃料の内訳は
原発の順次停止で石油業界として一番心配なのは、代替の火力発電の使用燃料が
どうなるのか、特に電力用C重油の具体的な量でした。
2007年の新潟柏崎刈羽原発停止の時は、月間70万KLという具体的な数字をもって
増産要請がありましたが、今回は、そのような大きな数字は、全く聞かなかったので
逆に興味をもって、電力会社の実使用量の数字に注目していました。その結果の4-9月
の各燃料の使用量は下記の通りです。

            電力10社計 使用燃料実績 Kl   石炭 LNG t 

  出所 電気事業連合会    http://www.fepc.or.jp/ 2011/10/31 更新

前年比でみれば、増加量が134%と一番多いのは、原油の生炊きですが、絶対量が
半期合計でもプラス117万KLですから、大したことはありません。
電力用重油については、プラス69万KL程度ですから、むしろ拍子抜けです。
LNGは同じ121%ですが分母が大きいので、430万tと多大かる絶対量になっています。

しかし、石炭、石油、そしてLNGは、重さや容積、そして燃焼時の熱量が違うので
これを燃焼時のカロリーで再計算してみましょう。

まず資源エネルギー庁が定めたエネルギー源別標準発熱量を使い、それを
上半期の使用量に掛け合わせてみました。その結果が以下の通りです。
結局手軽にそして短期で増設可能なLNGで乗り切ったことが分かります
発電燃料 熱量MJ 熱量単位 半期使用量 使用熱量Mcal 割合
発電用石炭 25.7MJ 6,142 kcal/kg 23,127 千t 142,047,748 26.5%
電力用重油 41.2MJ 9,847 kcal/L 3,966千KL 39,050,809 7.3%
発電用原油 39.4MJ 9,129 kcal/L 3,473千KL 31,705,410 5.9%
L N G 54.6MJ 13,049 kcal/kg 24,728 千t 322,676,181 60.3%
合  計 535,480,147 100.0%
今年の冬は乗り切れるのか
 一言で申し上げれば、全く心配していません。政府が発表した今冬の電力
需給の見通しによれば、節電を要請しなくてはならないのは、
原発依存時の高い 関西電力で 7.1%、九州電力で 3.4%、東北電力で2.2%。
その結果の節電目標は、関西で10%、九州で5%、東北電力では、比較的
余裕のある東京電力から融通出来るので、特に節電は必要ないとのことです。
 また冬の需要の増加の主要因は暖房ですので、灯油のファンヒーターや
電源すらいらな灯油の直火系ストーブの最も得意とするところです。
既に石油系暖房機器の売れ行きは、前年比2倍以上との報告を聞いており
更に、100V電源の必要のない、電池で着火するの昔ながらの石油ストーブの
売れ行きも、極めて好調ときいていますので、今冬の電力は全く心配ないでしょう。
 逆に言えば、あれだけ電力不足をアピールしてきた電力各社の本音は、やはり
原発がないと電力不足になる。よって早く原発を再稼働させてくれということなのか
と、やはり疑わざるをえない心境です。
決して安くなかった原発の発電コスト
 原子力発電が長年推進されてきた理由は、建設してしまえばコストが安いこと
そしてCO2を出さないので環境に良い?とのことでした。では、本当にコストは
安いのでしょうか。実は原発やその他の発電コストは、調査してみると実に色々な
数値があります。
 国の原子力委員会が小委員会を設けて試算した2006年の数値があります。
運転年数を40年、利用率は、表の通り、原油の輸入価格はその当時のものです。

単位kWh 水力 石油火力 LNG火力 石炭 原子力
利用率% 45% 30% 70% 80% 60% 70% 80% 70% 80% 70% 80% 85%
発電コスト 8.2 14.4 10.4 10.0 6.2 6.0 5.8 5.3 5.0 5.4 5.0 4.8

一方、資源エネルギー庁が本年3月22日に発表した
「発電コストをめぐる現状と課題について」の参考 発電コストの比較例
太陽光 風力 小水力 バイオマス 地熱発電 LNG
発電コスト 38-46 12-26 10-35 13-42 13-24 7-8

となっています。それぞれ平成21年度の支援対策補助金の実績力の参考や
地熱発電に関する研究会(平成21年6月)やLNGは、電気事業分化会コスト
検討小委員会からのデータです。
 これを見るとLNGが如何に安いか、また石油火力が最後のバッファーとして
使われ、利用率30%等非常に低い項目があることも、意味深いと思います。

原発の事故コスト その数値より国民との意識差の方も問題ではないか
 今回の国の委員会で審議されたのは、原発で重大事故が起きるリスクを
どうコストに反映させるのかという点でした。
 この原子力委員会は、政府の第三者委員会が見積もった5.7兆円を損失額として
採用したそうです。ところがまず驚いたのは、これは東電が最低限保証すべき
直接的な費用のみで、除染費用や風評被害等の総額は、不明なので含まれて
いないのだそうです。

そしてもう一つ驚いたのが、その発生確率の計算です。今日まで日本で原発が
稼働し始めてからの、全ての原発の累計稼働年数を足すと500年だそうで、
これに5兆円にかけると 1.4円という数字が出てくるのだそうです。
一方、IAEAの安全目標である10万年に1回を使うと、0.007円。
どちらにしろ、総合エネルギー調査会による試算値 5.3円に 1.4円を加えても
前述した他の発電より大幅に安いというのが、初めからありきの結論のようです。

ところがこれに対し、青山学院の本間教授という委員や、他の委員から5.7兆円では、
余りにも過小評価と異論が出たそうです。
損失額は、民間シンクタンクがまとめた廃炉費用や、首都圏を含む広範囲な除染
費用。更には、風評被害なども含めれば、48兆円となるそうです。
これで割りかえすと、事故リスク費用の上昇分は、1.4円ではなく、12円となります。

その意味では、前提とされる5.3円も疑問に思えてきました。計算根拠には、
使用済核燃料の処理コストやリサイクル費用も入っているそうですが、福島原発の
原子炉建屋内には、使用済み核燃料が数多く入っていました。それは、要するに
使用済核燃料の処理や一時保管してくれる先が、今の見積額では見つからない
ということを、物語ってるのではないでしょうか。更にプルサーマル燃料やプルトニウム
に対っては、研究から20年近くたっているのに、未だに技術的な裏付けすら、確立
されていないようでは、今後2倍3倍どころか10倍になる可能性だつてあるでしょう。

また色々調べてみると、原発のある地元自治体に交付される1000億円とも言われる
補助金は、この原発コストには入っていないようです。もし1000億円もの補助金があれば
それこそ、地熱発電のイニシャルコストくらいは出てしまうでしょうから、この際
国民の皆さんの納得の行く オープンな議論をしてほしいと思います。
本年も講演活動も無事終了しました。 感謝感謝
今年も9月10月は、私にとって講演シーズンでした。漫談師の綾小路きみまろさんも
おっしゃっていますが、講演はお呼んで頂かないと始まらないので本当に嬉しく思います。
9月1日 ロータリークラブ 東日本大震災とエネルギー業界の今後
9月8日 ロータリークラブ 東北支援について 今私一人でも出来ることは何か
9月9日 JRIC 東日本大震災 私一人でも出来る支援は何か
9月22日 秋田石商様 経営者セミナー 東日本大震災への教訓と水素社会について
9月30日 ニュールネッサンス会様 東日本大震災と石油業界
10月5日 水素スタンドビジネスモデル委員会 水素社会へのSSとして出来ること
10月9日 気仙沼 陸前高田訪問
10月13日 香川石商様 高松講演 東日本大震災への教訓と水素社会について
10月20日 韓国SKネットワーク 副社長以下ご一行様 日本のSS業界の現状と今後

10月18日 東京都石商様 大手特約店会 
10月26日 京成電鉄グループ研修会様  CS ES コーチングについて
10月28日 長野石商様 松本講演 東日本大震災への教訓と水素社会について

以上のうち、秋田、香川、東京、長野は、いわゆる業界講演ですが、何とトヨタ様との
合同と申しますか、ジョイント講演です。それまでは、トヨタ様にお願いしても全く実現
しなかったSS業界での講演が、垣見とセットなら?とう暗黙の条件付きながら、何故
可能となったのでしょうか。それはずばり震災があったからなのですが、トヨタ様に
お許しを頂ける範囲内で、来月にでもお知らせしたいと思います。

日本実業出版社 「よくわかる石油業界」 震災対応全面改訂実現か
皆様のお蔭をもちまして、2009年4月に発行した初著書 よくわかる石油業界ですが、
発売以来、本当に売れ行き好調で、実は、2010年9月に増刷(第2刷)をしていた程です。
著者としては、出版社の第1版の思惑よりは、少なからず売れた(ニーズがあった)のは、
誠に喜ばしい限りです。そしてこの秋に在庫をお伺いしたら、あと200冊しかないとのこと。
単純に増刷(第3刷)して頂くのも嬉しいのですが、今回の震災で石油業界はもちろん、
電気を始めとするエネルギー業界全体が、大幅なそれこそ原発政策では、540度の
大転換を迫られている訳なので、そのまま増版というのは、誠に辛いのです。
そこで当初の全面の予定時期より、1-2年早いのですが、本書を東日本大震災対応版
として、全面改訂をさせて下さいとお願いしておりました。

そして先日、担当者レベルながら前向きなご解答を頂きました。順調に行けば、来年早々
には発売に漕ぎつけることが出来そうです。新入社員教育や、2013年度入社予定の方の
業界参考書として大いにご利用頂けると思いますので、どうぞよろしくお願いします。