航空業界のANAのCS戦略に学ぶJXへの応援歌
 
JALとJASが合併しても何故ANAが勝ったのか その本当の理由は
あなたは、CS・ES・コーチング関連企画の件目の方です。(今回73700より再スタート)
本日4月1日より、新日本石油と新日鉱HDが経営統合し、JXホールディングスが誕生しました。
日本ではダントツの元売会社の誕生です。発足前から「JXに期待して下さい」と、統合説明会となった
全国合同新年会でも力強いご挨拶がありましたので、我々傘下特約店は、ブランド力も、実質的なコスト
競争力である価格も、他の元売を圧倒的にしのぐ新新仕切体系をご説明頂けるものと信じております。
その期待されるJXに対し、どんなお祝いのメッセージが良いかと思っていたのですが、先日ANA様の
研修会に参加し、経営の真髄と感じたのです。一般に航空会社のセミナーだと「お辞儀の角度は」の
接客研修(但しANAは接遇と言う)と思われるかもしれませんが、実はANAにとってCSは単なる接客
手法ではなく、経営の根幹を支える最も大切な基本方針なのです。私は、過去JALは1回、ANAは
5回受講ましたが、やはり違います。弊社HPでもご紹介した坂部千恵子先生や昨年からご講演されて
いる佐野川谷有加子先生のお話をお伺いすると、CSは「人」であり「心」そのものであり、その違い
こそがJALとANAを分けた根本的な差だと感じます。航空業界も非常に厳しく、JALとJASが合併を
余儀なくされた訳ですが、それでもJALは生き残れませんでした。JXには、絶対の競争力で勝ち残って
ほしいと信じ、ANAの経営の根幹であるCS戦略のご紹介をお祝いのメッセージとさせて頂きます。 
                                     文責 垣見裕司 2010/3/31 Ver1

航空業界とSS業界との意外な類似性
航空業界とSS業界が似ていると言ったら皆様驚きますか。
私も気づいてはっとしました。まずハードですが、使っている
飛行機は、ボーイングかエアバスですから、コストをかけて
座席でも変更しない限りほぼ同じです。空港も羽田なら第一
か第二の違いでほぼ同じです。
SS業界も主力商品のレギュラーガソリンは、ほぼ同じで、
SSハードが系列によって決定的に違うこともありません。
ソフト面は、機内サービスもSS店頭サービスも、「生産」と
「消費」が同時なので「人員」の在庫は出来ません。
また残るのは物ではなく「体感や経験」の記憶です。SSにおいても、ガソリンという商品が
燃えてなくなりますが、給油サービスや洗車も「物」ではありません。また同じサービスをした
としても、その評価は、お客様や状況によって違うのも似ています。価格も航空運賃は一応
届出制ですが、ほぼ自由化され真似されやすく、価格戦争をしているのもSS業界と同じです。
逆に違う点は、お客様との距離だと思います。ANAは、末端の社員が直接お客様と日々
接しています。SS業界でお客様と接しているのは、特約店や販売店のSSのスタッフで、
SS業界の戦略を立案する元売は現場と接していません。お客様相談センターを設置して
いますが、「直接」でないだけに後述の問題を生む可能性があります。
ANAの本気の改革は あの9.11から始まった
今では、ANAのCSは多くの企業の模範ですが、その歴史は、意外と浅いのです。
1989年本社にサービス推進本部を開設、1996年お客様の声レポート発行、
1998年にカスタマーデスクを設置しますが、年中無休になるのは2009年です。
2001年、インターネットでご意見窓口を開設までは、他社とあまり変わらないのでしょうか。
ところが 2001年に航空業界を揺るがす大事件が起きました。あの9.11テロです。更に
伝染病のSARSで、海外を中心にお客様が激減、関係者曰く、お客様の数より乗務員の方が
多い日が、何日も続いたそうです。そして2001年11月のJALとJASの経営統合が発表です。
これは石油業界の新日石とjomoの経営統合とは比べ物にならないくらいの大変革でしょう。
ANAの全社員が、「倒産」を現実の問題として感じたそうです。しかしその時現れたのが、
大橋社長(現会長)でした。「従業員は絶対に切らない。しかしコストはカットしなければならない。
是非協力してほしい。会社と共に頑張ろう」という名挨拶は、今でも社員の語り草になっている
そうです。私では、うまく表現出来ませんが、それも大橋様のお人柄でしょう。テレビでしか
拝見したことはありませんが、本当に人柄の良さが滲み出てくるような素敵なおじ様です。
きっと全社員が大橋社長を信頼し、ANAのため、そして自分の将来のために大橋社長に
ついていこうと誓ったのではないでしょうか。
最初の理念と指針は?
改革には何か「軸になる考え方」が必要だ。2002年4月 CS推進室が設置され、
最初の経営理念「私たちのコミットメント」
  ANAは、「安心」と「信頼」を基礎に、価値ある時間と空間を創造します。
  いつも身近な存在であり続けます。世界の人々に「夢」と「感動」を届けます」

行動指針6カ条、
  「安全こそ経営の基盤である。お客様の声に徹底してこだわる。社会と共に歩む。
  常に挑戦し続ける。関心を持って議論し、自信を持って決定し、確信を持って実行する。
  人を活かし、チームワークを力にし、強いANAグループを作る」。

そして「アジアでNO1の航空会社を目指す」というグループビジョンが作られましたが、
私はこれを聞いた時、「あれどこの会社でも使っている言葉だな」と心には響きませんでした。
それこそJALやJRが使っても全部当てはまってしまうのです。
一方普通の会社もここまではやるのです。でも「社内に徹底させておけ」で経営幹部も改革を
したつもりになってしまうのはないでしょうか。
ANAらしさとは何か「ひまわりプロジェクト」
しかしANAの改革は、むしろここからです。勝ち残って行くためには
お客様から常に選ばれる企業になることが求められる。他社とは
ひと味違った「ANAらしさ」を明確にし、お客様に質の高い感動の
経験を積み重ねていただくことが重要だが、そのANAらしさとは
何なのかを、CSを起点としたブランド戦略で考えたのです。
普通の企業ならこのブランド戦略の策定は専門企業に外注して
しまいそうですが、ANAは社内やグループ各社から中堅従業員
28名を選抜して自力で考えたのです。
2004年6月から活動を開始し、同年12月に経営者に答申するまで、
専門家の講演の聴講、各種調査、合宿等で徹底した議論を繰り返し
その結果「ANAらしさ」が「あんしん、あったか、あかるく元気」の
キーワードと「ひまわり」のイメージが出来あがりました。
皆さんも卓球の福原愛ちゃんに代表されるような「ANAのひまわり」
を見ましたよね。お客様は太陽、ひまわりはANA社員です。
3万本のANAグループの全関係者がお客様の方を向いて「頑張ります」という意味が込めら
れています。太陽の恵みを存分に吸収するための大きな葉、花をしっかり支える丈夫な茎、
大地にしっかり張った力強い根が揃って、ひまわりは初めてお客様に向いて咲くことができる。
根っこにあたるものが、お客様への想い、仕事への想い、仲間への想いといったANAの
マインド&スピリット「CSマインド・フロンティアスピリット・チームスピリット」です。大きな葉や茎は
ANAが重要視している5つの社内プロセスで、学ぶ、褒める、対話する、見直す、実践する
という各要素からなるANAの組織文化です。

企業風土まで変えた逆さまのピラミッド

お客様に常にANAを選んでもらうには、この「ANAらしさ」を高品質で
提供し続けていくことが大切ですが、それは現場一人一人全社員の
具体的行動に繋がらなければ実現出来ません。そのためANAは、
業務規程、マニュアル、教育研修、インフラ、その中で社内風土等
あらゆるものを見直しました。
皆様は、「逆さまのピラミッド」をご存じですか。普通は、社長を頂点と
する三角形ですが、ANAは逆にしたのです。
一番大切なのはお客様。直接接するのはCAや現場スタッフ。それなら
管理職が、彼ら現場をささえよう。その改革を目に見える形でもアピールするために、
職場の写真入りの組織ボードも逆さまのピラミッドにするとともに、一般のCAが事務所に
帰って来た時に接しやすいよう、椅子の配置も幹部を入口付近にしたそうです。
やがてCS推進会議室は、「サービスにかかわる構造的な問題に対し、あらゆる側面から
部門横断的な解決策を検討・決定し顧客満足向上の全社的な取り組みを推進すること」
としっかりとした目的が設定され、その実行のために予算と権限まで持つこことなりました。
我々もすぐに使えるGOODJOBカード
もう一つ変えたのは、日本人が下手な「褒める文化」の導入で、お互いの
仕事のいいところを見つけたら、それをカードに記して本人に手渡しする「Good Job Card」
というシステムです。これは仲間の仕事を褒め合うことを通じ、仕事への誇りを高めると同時に
他人の仕事に関心と理解を持つという風土づくりにも役立ち、それを
 「ANA‘s STAR AWARD」という報奨制度にまで確立、社員一人一人がお客様の
満足を高めることが、自分の歓びにもなるような環境を作りました。
そしてこのカードの内容やお客様からの感動のお褒めの言葉を紹介し、共感し、そして
大きな波にして行くために「エピソード集」を作成し全社員に配布したそうです。
また給与明細の封筒の話もすぐ真似出来そうです。毎月もらうその封筒に、お客様からの
お褒めやお叱りの声を印刷したのです。「給料は会社からをもらっているのではなく、
お客様からもらっている」。よく考えれば当たり前のことですが、よりはっきり、社員とそして
会社も自覚するようになったそうです。

ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なし
私がANAを「他業種のコーチング成功事例の調査事業」で取材した
2006年時点では、この「ESなくしてCSなし」の言葉はまだありませんでした。
単にお聞きしなかっただけかもしれませんが、当社もこのESに早くから
着目し、実践して来た会社として非常に嬉しく思います。
スタッフが楽しくなければ、良い仕事は出来ない。ある意味当たり前
のことなのです。また前述の逆さまのピラミッドと同様に、社内顧客という
発想も生まれ、先輩も後輩も同僚も皆、「相手はお客様」の気持ちで
接することになったそうです。これも働きやすい職場が生まれた一因
ではないでしょうか。


また2008年のANACSR報告書で、家族の職場訪問というプロジェクトを
見つけました。社員のお子様が、お父様お母様の職場を訪問するという
プロジェクトですが、きっと親子の絆は益々深まったことでしょう。
ちなみにこのプロジェクトを考えた人は、翌年の社長賞を獲得したそうです。
以上のANAの改革「ひまわりプロジェクト」は、全国各地で従業員を巻き
込んだCS社内セミナーを開催し続けました。年間約1400名、昨年までに
合計受講者は既に9000名を超えたそうです。同時に社内にどこまで浸透
しているかを常に把握する意味で、社員満足度調査も定期的に実施して
いるそうです。多くの会社が「言いっぱなし」や「やらない社員が悪い」で
終わらせている中、ちゃんと理解したか、そしてやる気になったか、
本気でやってくれそうかまで確認して、初めて本当のコミュニケーションだ。
私のCS、ES講演でもお話していますが、ANAも同じ徹底ぶりで大変嬉しく
思います。
石油業界で考えると
ANAが「人」で勝負しているに対し、石油元売は精製設備で勝負しているように思えます。
装置産業だからと言えばそれまでですが、それなら弊社のLPガス充填所も装置産業です。
充填所の社員にはお客様の顔は全く見えませんが、だからこそCSの心が必要なのです。
元売もお客様センターを設置してお客様の声を聞いていますが、その活かし方が問題です。
「SSは何をしているんだ。元売のブランドを傷つけるな」。本来はCS向上のための良き
宝の山のはずなのに、SSの落ち度をみつけて突っ込むための材料になりがちなのです。
また一部の元売はそのお客様センターすら外注ですから、本当の声は伝わらないでしょう。
しかし我々特約店にも問題があります。元売から受けたそのストレスをある意味そのまま
SSに転嫁してしまい「お前ら何をやっているんだ。元売からおこられたじゃないか」という
トップも少なくないでしょう。本当は、お客様のご不満を如何に解決するかが大切なのに
「元売から文句を言われたことが我社にとって問題」と本質がすり替わってしまいそうです。

JXへの応援歌「人」や「心」も大切にして
新日石とJomoの経営統合で企業規模は間違いなく日本一、装置産業として絶対的な
優位を確立したと言えるでしょう。後は正に「人」や「心」です。優秀な人が多いことは
存じ上げていますので、CSやES、社内顧客、そして本当の意味でのSSサポートという
企業文化を構築してほしいと思います。その意味ではJomoは石油業界の中で、早くから
CSやESを説いてきました。2006年には、系列の壁を超えて東北Jomo会、近畿Jomo会に
私をお招き頂き「真の顧客満足は従業員全員の心からのやる気と満足とから生まれる」
という講演をさせて頂きました。
またANAのCS活動の成功の特徴は、羽田の現場若手社員から始まったボトムアップの
活動と、経営トップが全社に広げたトップダウンの活動が、9.11やJALとJASの経営統合発表
という外的要因で一つになり、会社と社員のベクトルが完全に一致したことだと思います。
今回のJXも石油業界の未曾有の需要縮小と過当競争による利幅の減少で全元売が
実質赤字という逆境下で誕生しました。是非、新日石とJomoという水平方向は勿論、
トップダウンとボトムUPの水直方向についても、CSやESの企業文化を取り入れ、
石油業界をあるべき姿に導いてほしいと思います。
さて、ANAグループには、CSや接遇等をご指導されているANAラーニング社があります。
私はコーチング研究の際に同社とのご縁が出来き、2007年より各地の県石商様の
講演会講師としてご推薦させて頂きました。2010年度にANAラーニング社の石商研修会が
ありましたら是非ご参加されることをお勧めすると同時に、接遇マナーのみではなく、
CSやESを推進してきたANAの企業スピリットも感じて頂ければ幸いです。
これぞ人を大切にするANAの真髄 ハンカチを用意してお読み下さい
最後にANA様のご厚意で、ANA様の社内報から 感動秘話の掲載をお許し頂きました。
もはや、余計な説明は無用です。全社員に心が伝わっているからこその 全社員が
自ら考えたゆえの人育てエピソードだと思います。何度読んでも泣いてしまいます。


本原稿掲載に快くお許し頂いたANA及びANAラーニング社に深く感謝する次第です。
参考資料 ANA HP、CSR報告書2009、グループ理念、
書籍「お客様と共に最高の歓びを創る ANAが目指すCS」 社会経済生産性本部出版
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