現物は動くか、先物市場の今後は
10月20日に初納会を迎える東京工業品取引所を考える
拝啓 皆様こんにちは、あなたは10月企画の 番目の御客様です。
 さて昨年の中部工業品取引所のガソリンと灯油の取引参考価格の情報開示に続き、
東京工業品取引所ではガソリンと灯油の先物取引が7月に開始されました。
そして10月20日に我々のような石油関連事業者にとっては一番大切な11限月物の
初納会日が迫っており、最終的にどの程度の数量が現物で取引されるのか?
その受渡しはスムーズに行われるのか、石油業界、商品取引業界双方から大変注目が
集まっています。今月はその現物数量の意味も含め石油業界にとっての先物市場を解説
して見たいと思います。1999.10.1/10.8更新 NO5 文責 垣見裕司
先物とはなにか
先物取引を一言でいうと、本来は
「将来の一定の期日に、一定の条件のもと、今決めた価格で取引する約束」です。
従って将来の取引を今決められるので、今後の価格変動のリスクを回避(ヘッジ)
できるという「保険」と言えます。しかし保険だけとして先物を考えるならその後の
価格変動は見ないほうがよいでしょう。というのも、例えば在庫をもっている人が
先物市場で売り価格を確定させた後、その価格が安くなれば損を回避出来た事に
なりますが、もし高くなれば得られたはずの利益を取得出来ないことになります。
この時に「やはり先物をやらなれけばよかった」というのは、先物への理解が足り
ないと言えるでしょう。また先物で特徴的なことは、最終的に実際の商品の受渡し
までに至る割合は多くなく、ほとんどの場合購入価格と売却価格との差額を現金で
清算して約束期日前に取引を終わらせていることが上げられます。

指定期日に実際の品物の取引をしないのに何故リスク回避が出来るのか
それは業転取引等の実勢価格と先物市場の直期近物は、幅はあるにしろリンクした
動きをするであろう事を前提に、先物市場と業転等実際の市場の二本の足(価格)
を利用して、実際の取引の損得と先物市場で反対売買ですることにより、先物市場
での損得と相殺しているからです。もちろんこれは現業者の話ですから現物取引を
ともなわない一般投資家は先物市場だけで勝負しなくてはなりません。
ですから一般投資家にとって株式の信用取引と同じように、石油製品の先物取引は
必ずしも儲かるとはと言えないことに注意しなくてはなりません。

レバレッジ効果とは何か
先物取引にはもう一つ特徴があります。例えば100万円の有価証券を買う場合は
当然100万円+手数料が要ります。これが信用取引ですと30%程度の保証金で
よくなりますが、先物取引では更に少なくて済みます。
例えばガソリンなら1KL当たりの価格が22,000円以上〜27,000円未満の場合は
1単位である100KLで僅か90,000円です。従って本来なら270万円の取引が
僅か4%の9万円の投資資金で出来る訳で資金量から見た投資効率は高くなります。
これが「てこ」と称されるレバレッヂ効果ですが、価格が思惑と反対にはずれれば、
すぐさま追証拠金を迫られる訳で、ハイリスクハイリターンの投資であることは、
十分注意しなくてはなりません。

ガソリン灯油の詳細条件及び取引要領 
市場は「石油市場」、取引の種類は「現物先物取引」、ガソリン灯油ともそれぞれ
日本工業規格のK2202の2号、K2203の1号の品質基準に適合する商品です。
売買仕法は「システム売買による個別競争売買(複数約定)」で6ヶ月以内の
「連続6限月制」です。当月限納会日は当月限の前月20日、受渡日は当月限の1日
から当月限の末日までです。また先物市場における取引はガソリン税抜きですが、
受渡代金にはガソリン税を付加します。呼値は、1KL当たりで10円刻み、しかし
取引単位や受渡単位は1枚と称し100KL単位です。
気になる委託手数料ですが、1枚当たり約定値段にかかわらず一般の方は 3,800円、
会員は 1,000円、認定当業者は 1,000円です。認定当業者とは元売や我々のような
石油業者で、登録料として150,000円、毎年の更新料として150,000円の支払えば
その資格が得られます。詳しくは 東京工業品取引所の公式HPへどうぞ


7月−9月上場3ヶ月の価格変動と売買高は
下記表は、ガソリンと灯油の上場以来の価格変動と出来高、取組高の推移です。
最初ストップ高、その後ストップ安と価格的には説明のつかない、すなわち、現実の
業転市場とも、ニューヨークの原油やガソリン市場とも全くリンクしない動きも
ありましたが、今はようやく、落ち着きを見せているようです。
またその出来高も他の上場商品に比較し、極端に多いとのことです。尚、図にある
取組高とは売りや買いのままで決済が済んでいない建玉の数を表しますが、現物で
取引されない限り、いつかは決済される訳で、今後の市場規模を推測出来ます。

上記表のバックデータは、
ガソリン灯油 は、テキストにておいてあります。

元売各社は極めて冷静
先物市場における現業者の反応は、燃料商社でも各社親会社である総合商社に
任せるというスタンスで極めて冷静です。元売では例えば外資系M社は
「系列特約店から先物市場での現物売渡しの為のオーダーを頂いても商標他等の
 関係から、出荷出来きません」等を事前に発表しているなど、冷静というより
むしろ沈静化を期待しているのではないかと思われる会社もあります。
 この元売が否定的とも見える姿勢を示している理由は、先物市場が新たなる価格
指標となり、元売価格決定権が益々弱くなる一方、東工取の取引価格と業転取引の
実勢価格との間にずれがあることも理由のようです。ですから複数の元売が妥当な
価格で取引ができるなら参加しても良いという話しも聞いています。現在東工取の
元売会員は太陽石油と三井石油、親会社を除く燃料商社では、伊藤忠燃料、丸紅
エネルギー等です。認定当業者は守秘義務の関係で公表されていませんが、関係者の
話では、推定20−30社ではないかとのことでした。

苦心の跡が分かる受渡諸条件
さて現業者にとって最も重要なものはその受渡条件です。受渡場所は、海上出荷
及び陸上出荷(海陸格差1200円/KL)の両出荷設備を有する神奈川、東京、千葉に
所在する製油所又は油槽所のうち、理事長が理事会の議を経て指定した場所です。
その受渡条件は以下の通りです。
(1)受渡場所の選択権:渡方に帰属する。
(2)受渡方法:内航船若しくはタンクローリーによる受渡。
(3)受渡方法の選択権:受方に帰属する。
(4)受渡日の選択権:原則として、受方に帰属する。
(5)受渡当事者の決定:抽選により決定。但し納会日から抽選で決定するまで
  合意により受渡当事者の組合わせが成立した場合にはこの限りではない。
(6)分割受渡:受渡に当たっては、分割して受渡を行うことができる。
他の上場商品の比べるとかなり具体的の様ですし努力のあとは十分に見えます。



売り手の側の誠意ある協力は得られるか
しかしもしローリーを1台持っている川崎の零細事業者が買う場合、事前相談に
失敗して抽選になり、それが運悪く千葉の業者で、その会社は川崎等にバーター
出荷先がなかった時などは、千葉まで取りに行かなくてはならないでしょう。
また製油所等は消防法上非常に危険な場所という意味で、ローリーが入所する為
には、事前に安全教育を受けたり運転者講習済み登録をしなければならない等
始めてかつスポット場合や、売り手が協力的でない場合などは、予想出来ない
多くのコストとが時間がかかることが考えられます。

申告受渡し制度とは何か
上記のような問題点を少しでも解決しようと、石油に関しては「申告受渡し制度」
というのが設けられました。これは、前述(5)のように納会日以降ではなく、
納会の前に、すなわち11月限月であれば、10/1−10/18までに買い手
売り手双方が取引所に対して「現物を受渡しする旨」の申し入れをすることにより
取引の相手や内容を事前に決めてしまう制度です。これは価格は取引所で決めるが、
それ以外の点は通常の取引と同様に出来るという制度です。またその数量も双方の
合意があれば、差は清算して100KLを52KLまで減量出来る制度もあります。

その真価が問われる初納会
その意味で11月限月の初納会となる10月20日以降の1ヶ月間の、現物の
受渡しが順調に行くかどうかは、今後の先物市場を占う上で、極めて重要な時期と
なるでしょう。参考発表ながらも現物購入がが可能な中部工業品取引所のガソリン
灯油軽油は、業転と呼ばれ大変マイナーなイメージであったノンブランド品を、
正にJIS企画製品に格上げする一方、取引に参加しないまでも、その価格は
数少ない公の指標として十分認知されてきたと思います。

その価格も重要な要素です
一方10月1日の東工取の価格は 11限月ガソリンで26円前後ですが、これは
1000KLロットのバージベースでの業転の実勢価格より、2円程度高い水準です。
従って業転で売るよりは先物市場の現物取引で売りたいと思う元売が出ないとも
限らず、そうなれば先物市場が大幅に活気付く可能性もあるでしょう。
本命の東京の石油市場が、本来のリスクヘッジ機能と公の価格指標をもつ魅力有る
市場になるのか、それとも市場関係者の為だけの、そして一般投資家にとっても
単に投資商品が増えただけで終わってしまうのか?
私個人としては、何故現物ではなく先物から始めたのか、何故期近ものが期先もの
より出来高が極端に少ないのか、それが何を意味するのか等の疑問はありますが、
決断力ある経営者にとっては、今まで資金力ある会社にしか出来なかった超大型の
在庫タンクを、超ローコストで持てる?利点も見逃せない訳で、先物市場の今後の
成り行きを見守りたいと思います。

初の申告受渡成立、10月8日追加
東京工業品取引所は7日、灯油1枚の申告受渡し制度の申請を受け、これが成立
したことを認めました。渡し方、受け方とも萬成プライムキャピタル証券で、
決済価格は同日の引け値、受渡し方法や格差調整金額は当事者間で取り決める
としています。実際の売り手、買い手名は非公開ですが、石油市場で常に売買高の
最上位を誇る同社が、並々ならぬ努力で両者を説得し、諸条件を調整したことは
容易に推測できます。これで現物の移動が全く無いという事態がさけられた供に、
事前申告受渡し制度の有効性を始めて実際の取引で示すことなり、注目すべき
出来事だと思います。

その後の現物取引数量、11月25日追加
その後の2ヶ月を経過しましたが、特に大きなトラブルもなく下記の現物数量が
受渡されています。その数量の意味については、皆様のご判断の通りです。
銘 柄12月限月本受渡申告受渡 11月限月本受渡申告受渡
ガソリン3枚 300KL1枚2枚 3枚 300KL0枚3枚
灯 油 162枚16200KL91枚71枚 81枚8100KL27枚54枚