非上場会社に格付けは不要か?
石油業界におけるムーディーズ格付けを考える
拝啓 垣見油化HPファンの皆様、あなたは10月企画の 番目のお客様です。
さて今月は、米格付け会社から投機的とも言われるB2を付けられた出光
非上場企業に格付けは不要なのか、そのB2とはどのくらいの評価なのか。
動揺の広がった石油業界を公平な立場で分析してみたい。
そもそも格付けとは何か

まず格付けとは第三者である格付機関が、社債等の発行体(国家、自治体、企業等)の
返済能力を財務、事業、収益、経営政策、取引先など色々なな角度から総合的に判断し
付与する評価結果のことで、日本には「株式会社日本格付投資情報センター」R&Iや
「株式会社日本格付研究所」JSRがありその結果我々は相対的な優劣が分かります。
しかし最も権威があり市場が敏感に反応するのはやはり米国のムーディーズでしょう。
その格付け種類も短期長期、優先株、銀行財務、発行体格付けなど色々ですが長期債は
Aaa 極めて優れていると判断された債券に対する格付け。投資対象としてリスクは最小限である
Aa 総合的に優れていると判断された債券に対する格付け。一般的に上級債券と総称される
上記債権との相対的比較から、元利払いの安全性の余裕度は小さい。
投資対象として数多くの好材料が認められ、中級の上位と判断された債券に対する格付け
元利払いの確実性は認められるが、将来の安全性を低下させる事柄が出現する可能性がある
Baa 中級と判断された債券に対する格付けで現時点では元利払いの確実性が認められる
しかし長期的には特定の要素についてその確実性が低いか、信頼性の低い性質のものがある
Ba 投機的な要素を含むと判断された債券に対する格付け。将来の安全性に不確実性がある
元利払いの安全性は中位で、長期的には情勢によってその安全性が維持されない場合もある
好ましい投資対象としての適正さに欠けると判断された債券に対する格付け
長期的な観点から見ると、元利払い及び契約条項の遵守の確実性は低い
Caa 安全性が低いと判断された債券に対する格付け
債務不履行に陥っているか、あるいは、元利払いを困難にする要素が認められる
Ca 非常に投機的であると判断された債券に対する格付け
債務不履行の状態にあるか、また重大な危険性が認められる
長期債券に対する最も低い格付け。有効な投資対象となる見込みは極めて薄い

などに分類され更にAaからCaaまでの格付けに、1、2、3という付加記号を適用し、
1は債券が格付けのカテゴリーで上位に、2は中位、3は下位にあることを示します。

石油電力、建設、商社、銀行保険、国家など長期債格付(一部発行体格付)9/21現在


出光の反論

みなさんのご感想は如何ですか。絶対評価はともかく各業界内の公平な立場から見た
相対的な評価には大変役にたつと思います。ところが勝手に格付けされた出光の方は
「出光は未上場で資金調達は全額を金融機関に頼っているので、格付けは必要ない」
「人間尊重や、消費者本位を社是にし、経営合理性だけを追求している訳ではない」
と、記者会見まで開いて反論しています。
ではそもそもこの非上場企業である出光の格付けは、だれが要請したのでしょうか?
通常は自信のある?当該企業が、宣伝や自己紹介をかねて、自らお願いするケースと
機関投資家や銀行などの金融機関の要請に基づき実施されるケース、更には第三者の
依頼を受けていない「完全な勝手格付け」のケースがあるようですが、今回は出光は、
要請するどころか「5月下旬にムーディーズから申し出があった時中止をお願いした」
とコメントしていますし、金融機関からの動きから推測すると、同機関の権威高揚など
の目的で実施することが、他機関に比べて多い、勝手格付けであると推察出来ます。
またこれは一般論ではありますが、当該企業からの依頼の場合は、分析資料の提供や
役員面接などによる経営方針の確認作業などある為、比較的適正な評価が出るのに対し
勝手格付けは、既に公表されている資料のみで判断される為、その結果は前者と比べ
やや低く出るようです。また相対的にも日本の格付け機関よりムーディーズの方が
より厳しいということも付け加えたいと思います。

だからこそ日頃からの情報公開を

さてこの、格付け必要、不要論、いったいどちらの意見が正しいのでしょうか?
 確かに非上場企業は一般投資家から資金を調達していないのは明らかです。
しかしその金融機関が貸しているお金は正に国民の一般消費者のすなわち
その非上場企業とってもお得意様である方々のお金なのです。
また年商が2兆円ならば、それだけ社会への貢献や影響力も大きいはずですし、反面
1兆3千億とも5千億とも言われてる多大な借入金には、社会的責任もあるはずです。
もし万が一のことがあれば、、、金融機関が受けるダメージは想像を超えています。
ですから、勝手に格付けされたことやその評価にクレームを言う前に、一般国民や、
金融機関に日頃から情報開示し、健全企業であることを証明しておけば良いだけの事
ではないでしょうか。
またムーディーズ自身も、「格付けは単なる意見であり、債券売買の勧告ではないし
その正確性についても保証しないし、ある決定におけるひとつの要素として考慮される
べきもので、その利用者は、自ら調査・評価しなければならない」と言っています。

さてこの議論、どちらの言い分が正しいのでしょうか。それは勿論読者の皆様が
ご判断することだと思いますが、確かなことは、今や1億総自己責任の時代です。
今月の企画が、石油業界の、そして大切なお金を預ける金融機関をたまにはゆっくり
考えて戴くきっかけになれば幸いです。 文責 垣見裕司